ばくだん凛ちゃん
自分が父親になるなんて1年ちょっと前までは全く想像出来なかった。

結婚して子供が出来て、クタクタに疲れ果てて仕事から帰ってきても、子供をあやしたりするのは不思議と苦痛ではない。

「凛」

名前を呼ぶと声を上げて足をバタバタさせる。
その名前、ようやく自分のものだとわかってきたかな?

それを見ながら、頭を支えきれなくなってガクッ、となる。

ハルが食事の準備をしてくれているのに。
今日は眠気が酷い。



次に気が付いたのは夜中だった。
一緒に寝ていたはずの凛はベビーベッドに。
隣にはハル。

しまった…。
僕が起き上がると

「起きたの?」

ハルの声。

「ごめん。ご飯…」

「お腹空いた?温め直す?」

ハルもゆっくりと起き上がる。

「いいよ、ハル。
朝にでも食べるから…」

ハルも授乳で疲れているのにね。
ありがとうの気持ちを込めてハルの額にキスをした。

その瞬間。
…揺れているベッド横のテーブルに置いているスマホ。

思わず舌打ちしそうになる。

「はい、高石です」

相手は小児科病棟の看護師。

「はい、わかりました。
今から行きます」

その通話を切って、ため息混じりにハルを見る。

「夜ご飯、お弁当箱に詰めようか?」

ハルの提案に僕は頷いた。

「うん、ありがとう」

今、行けば。
次はいつ帰ってこられるのかな、家に。

ベッドから出て僕は凛が眠るベビーベッドの傍へ行く。

「じゃあね、凛」

その小さな額に軽くキスをした。



「ありがとう、ハル」

僕は鞄の中にお弁当を入れた。

「いえいえ、気をつけてね」

ハルはすっかり目が覚めたらしい。
申し訳ない…。

「うん、ありがとう」

リビングで一度ハルをギュッ、と抱きしめ、キスを交わす。

「あ…凛が泣いてる」

寝室から聞こえる凛の泣き声にハルはすぐに反応した。

「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」



夜中3時の戦いが、僕もハルもそれぞれ始まる。

凛の声に後ろ髪を引かれながら玄関のドアを開けた。

春とはいえ、外は寒い。
僕は少し首を竦めて階段を降りた。

一瞬、2階の寝室辺りを見ると丁度明かりが付いた。

本当は一緒にいたかったな…。

僕は視線を戻して車へと向かった。
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