ばくだん凛ちゃん

★ ハル ★

「凛、お父さん行っちゃったよ」

私は授乳しながら凛に話し掛ける。
凛は凄い勢いでおっぱいを飲んでいる。
『私、知らなーい』
とでも思っているのかな。

透、今日はとても疲れていた感じだった。
ご飯の準備をして、寝室に行ったら…。
凛と共にベッドで寝ていた。
あまりにも気持ち良さそうにしているので私はそのまま透を起こさずにいた。
…添い寝でそのまま凛も。
まあ凛は授乳で1時間くらいで起きたけど。

毎回、いつか透は過労で死んでしまうと思う。
ほとんど睡眠を取らないでも大丈夫な体といっても、年々体は衰えていく。
燃え尽きる前に透はどこかに逃げて欲しい。
医師として使い物にならなくなる前に。



いつの間にか凛は眠っていた。
そのまましばらく抱っこし続ける。
気持ち良さそうに口を動かしている。
こんな仕草も透は時々しか見られない。
というか、医師は皆そんな感じなんだろうけれど。
どの診療科も大変だと思うけれど、小児科ほど理不尽に思う科はないんじゃないかと私は思う。
他人の子供はたくさん見るけれど自分の子供の事を見られないなんて。

…でもそれは仕方がない。
それが透の選んだ道なのだから。

ただ…。5月8日の検診は一瞬でも同じ場所に居られるのは嬉しい。
欲を言えば透に凛を診て貰いたいけど。
そんなに世の中、上手くいくわけがないよね。

段々腕が重くなってきた。
そっとベビーベッドに置く…。

「うー!!」

一瞬で凛の目が開いた。
ああ、またやり直しだ。
私は時計に目をやる。
午前4時前。

大きくため息をついて凛を抱っこした。

いつまで続くんだろー、こんな事。
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