結婚ラプソディ
ハルさんとナツは食事が終わると早々に帰った。

俺と透は飲み直し。
透の病院から程近い、ビル内にあるバーへ行った。



「最初聞いた時は八つ裂きにしてやろうかと思った」

淡々と言うなよ!

「まあ、さっきのを聞いたら少しだけ落ち着いた」

透がようやくいつもの穏やかな笑みを浮かべる。

「お前のようなドラマチックな展開ではないけどな。
言っておくが俺も本気だぞ。今回は」

いつもはどこか遊びなのか?という突っ込みは止めてくれよ。

「なっちゃんのどこが良かったの?」

透、ニヤニヤ笑ってる。

「…どこって、体が」

半分、冗談だったのにその瞬間、透の平手打ちが俺の額に入った。
ニヤニヤ笑っていた顔が真顔だ。

…コイツ、ハルさんと同位置にナツを並べてないか?

「透、俺のトラウマ、知ってるだろ?」

少しだけ、胸の奥が痛い。

昔、付き合っていた女医が本命の彼氏と俺を二股に掛けていた。

その彼氏も医師。

どちらが出世するか、その女医が見比べて結局、本命の彼氏を選んだ。
そいつの方が少しだけ俺より先に出世の階段を登るのが早かったんだ。
ただ、あの女医。
別れても体の関係は続けてくれとか言い出して。
それは相性が良かったとか云々。

出来るか!そんなもん。

俺はそれ以降、まともな恋愛が出来なくなった。

怖くて誰とも付き合えない。
まあ仕事も異常に忙しかったから良かったけど。

「この6月に仕事帰り、たまたま一人で居酒屋に寄ったら、これまた一人で居酒屋で飲んでたのがナツ」

透はあのキラキラ光る瞳で俺を見つめる。

「泣きながら一人で飲んでるから話を聞くと、実習中に仲良くなった患者の容態が急変して亡くなった、と」

よくある話。

ナツはそれを初めて目の当たりにしたんだな。

「『辛ければ医師でも泣いていいんだよ』って日下教授がよく言っていたと思ってそれを伝えたら本気で号泣した。
泣いて泣いて…寝た」

「はあ?」

透の眉間に皺が寄る。

「一人でだいぶ飲んでたみたい。
俺、おんぶして自分の家に連れて帰ったよ」

透、またまた怖い顔。

「で?
寝てるなっちゃんを襲ったのか?」

今度は俺がお返しだ!
透の額を叩いてやった。

「アホウ。
そんな事はしない。
その時はまだナツは学生の内の一人でしかない」

その日は俺のベッドで寝かせて、ただ、それだけ。

翌朝、顔を真っ赤にして平謝りのナツを見て、可愛いなあ、と思ったくらいだな。
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