結婚ラプソディ
「それくらい、どうって事ない」

頭の上から父さんの声が聞こえる。
僕は頭を上げた。

「それくらいの事は親としてさせてもらう。
勿論、ハルさんにも負担が掛からないように出来るだけの事はするから。
ただ来賓の方々に対しては精一杯のおもてなしの心を忘れないで欲しい。
皆さん、本当にお忙しい中、お前達を思って来てくださるんだから」

自分の心の奥底に初めて父さんの言葉が突き刺さった気がした。

「ありがとうございます…
お父さん」

そう返すのがようやくだ。
これ以上、口を開いたら涙腺も緩む。

「さあ、今日は早く帰って寝ろ!」

兄さんが明るく言う。

「本当に疲れるから、寝て体力温存しとけよ」

…まあ、兄さんの時のような過酷な結婚式、披露宴ではないと思うけどね。

「それと透」

兄さんは咳払いを一つした。

「今日くらいは自分の気分が盛り上がってもハルちゃんをゆっくりと休ませるように。
お前も医師なんだから加減はわかるだろ?」

その瞬間、隣にいたハルの顔が真っ赤になる。

「…兄さん、余計なお世話だよ」

「イヤイヤ、お前は相手がハルちゃんだと手加減しないからな。
ハルちゃんも透のワガママには付き合わなくて良いから。
嫌な時は断りなよ…って嫌な時なんてなかったらどうしようもないけど」

ハルは目を丸くして倒れそうだ。
桃子さん…涙を流して笑っている。
腹を抱えて笑いすぎだよ。

「至、透を弄るのもいい加減にしなさい」

母さんが止めに入ってくれた。

「まあ、冗談抜きで今日くらいは二人とも休め。
寝られなくても目を閉じて体を休めないと」

「どうもありがとう、兄さん」



僕達は早々に実家を後にした。
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