結婚ラプソディ

★ 小児科部長 太田 ★

「最初の乾杯を太田先生にお願いしたいのですが」

5月下旬、透先生から披露宴を8月に行うので都合が付けば出席して欲しい、と言われて即答し、挨拶も引き受けた。

透先生が結婚するなんて天と地がひっくり返るようなものだ。

…失礼な言い方だとは思うが、皆、そう思っていると思われる。

「私に出来る事であればお手伝いしますよ」

透先生が嬉しそうに『ありがとうございます』と言って頭を下げてくれた事はとても印象に残っている。



最初に紺野へ来た時は。
挨拶はきちんとするし、言葉使いも丁寧。
仕事も経験豊富でやり手だと思った。

が、その反面、どこか冷やかな目をして周りを見つめている時も多々あった。

看護師にでも勉強をしていない人間に対しては冷たく言い放ったり、人間関係でのトラブルは時々あった。

プロ意識の高さがそうさせるのか。

…けれど。

患者とその家族に対しては献身的に尽くす。

泣きじゃくる幼児に対して、決して嫌な顔をせず、優しくニコニコして接する。
その親御さんに対しても。

『子供が泣いたり嫌がるのには必ず理由があります。
大人にとって些細な事でも子供にとっては譲れない事もあるんです。
しっかりと表情を見て、読んであげてください』

若い看護師が腹立ち紛れに子供に接していた時にそっと呼び出して諭していた。

またある時は。

外来に来た子がジタバタして診察が出来ない時は一緒になってジタバタやってみたり。
そうするとその子は大人しくなった。

常に惜しまない努力と結果を出す人だ。

まあ私よりうんと若いのでそのエネルギーに溢れているのだろうけど。

そういう透先生の姿勢を見て、やがて周りは羨望の眼差しを向けるようになる。

紺野の小児科を救ったのは間違いなく透先生。
皆の意識も変えたのも透先生。

いくら感謝してもしきれない。

だからこれくらいはさせて頂こう。
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