結婚ラプソディ
「太田先生、挨拶は短めにお願いします」
同じテーブルに座っている神宮寺先生は私に手を合わせた。
「あのねえ、こんなにいっぱい人がいたら短めにするに決まっているでしょ」
持ち時間は1分30秒。
神宮寺先生に頼まれなくてもそうしますよ。
「…奥さん、大丈夫でしょうか」
黒谷先生が心配そうに呟く。
入場してきた時から透先生が気を使っているのがわかるくらい、奥さんに歩調を合わせてゆっくりと歩いてきた。
確かに色打掛を着ているから余計にかもしれないけれど。
事情を知っている、ここにいる医師全員、気が気でないだろう。
「もし何なら明日に病院で検診を受けて頂いてそのまま入院させましょう」
とは産婦人科部長の江坂先生。
透先生の披露宴なのにこのテーブルでは何やら物騒な話をしている。
「入院されたらまた、ナース達に変な噂を流されますよ」
ため息をつくのは小児科病棟師長、河内さん。
「そうですね、出来るだけそういう事がなければいいのですが」
黒谷先生も大きくため息をつく。
おいおい、披露宴なのにどんよりしているぞ、ここ。
透先生が最初に挨拶をして院長先生の知り合いが2名祝辞を述べ、その後自分の名前が呼ばれる。
透先生と奥さんに頭を下げてからマイクの前に立った。
1分30秒…って神宮寺先生!
口パクで言うな!
視界に入ったと思ったら…。
まあ、いいや。
早く済ませてしまおう。
「透先生、ハルさん、ご結婚おめでとうございます。また御両家の皆様にも合わせてお祝い申し上げます」
人が多いので多少のざわつきが心地よい。
緊張せずに済む。
「只今ご紹介に預かりました。
私、紺野総合病院小児科部長の太田 寿和と申します。
この度、僭越ながら乾杯の音頭を取らせて頂きます」
一瞬視線を下に向けた。
30秒経過。
「透先生とは同じ小児科部長の立場で医療に携わっておりますが、一緒に働き始めて5年。
何度も彼には助けられました。
彼の存在は小児科にとってなくてはならない存在です。
そんな透先生が本日、ハルさんという素晴らしい女性と人生の新たな一歩を踏み出される。
この人生の門出を同じ場所で見る事が出来て本当に幸せに思います」
あと30秒弱。
「それでは皆様、乾杯のご唱和を宜しくお願い致します。
お二人の末永いお幸せと御両家並びに御列席の皆様方のご多幸とご発展を祈念致しまして、乾杯!」
乾杯の唱和が聞こえる。
その後に割れんばかりの拍手が。
「太田先生」
席に戻ると神宮寺先生がスマホを見せた。
表示は1分30秒。
「凄いですね!」
「…こう見えてもあちこちで講演しているのでね」
こんなところで仕事の経験が活きたよ。
私はホッとしたのもあって少し汗ばんだ額をハンカチで拭いた。
これにてお役御免。
同じテーブルに座っている神宮寺先生は私に手を合わせた。
「あのねえ、こんなにいっぱい人がいたら短めにするに決まっているでしょ」
持ち時間は1分30秒。
神宮寺先生に頼まれなくてもそうしますよ。
「…奥さん、大丈夫でしょうか」
黒谷先生が心配そうに呟く。
入場してきた時から透先生が気を使っているのがわかるくらい、奥さんに歩調を合わせてゆっくりと歩いてきた。
確かに色打掛を着ているから余計にかもしれないけれど。
事情を知っている、ここにいる医師全員、気が気でないだろう。
「もし何なら明日に病院で検診を受けて頂いてそのまま入院させましょう」
とは産婦人科部長の江坂先生。
透先生の披露宴なのにこのテーブルでは何やら物騒な話をしている。
「入院されたらまた、ナース達に変な噂を流されますよ」
ため息をつくのは小児科病棟師長、河内さん。
「そうですね、出来るだけそういう事がなければいいのですが」
黒谷先生も大きくため息をつく。
おいおい、披露宴なのにどんよりしているぞ、ここ。
透先生が最初に挨拶をして院長先生の知り合いが2名祝辞を述べ、その後自分の名前が呼ばれる。
透先生と奥さんに頭を下げてからマイクの前に立った。
1分30秒…って神宮寺先生!
口パクで言うな!
視界に入ったと思ったら…。
まあ、いいや。
早く済ませてしまおう。
「透先生、ハルさん、ご結婚おめでとうございます。また御両家の皆様にも合わせてお祝い申し上げます」
人が多いので多少のざわつきが心地よい。
緊張せずに済む。
「只今ご紹介に預かりました。
私、紺野総合病院小児科部長の太田 寿和と申します。
この度、僭越ながら乾杯の音頭を取らせて頂きます」
一瞬視線を下に向けた。
30秒経過。
「透先生とは同じ小児科部長の立場で医療に携わっておりますが、一緒に働き始めて5年。
何度も彼には助けられました。
彼の存在は小児科にとってなくてはならない存在です。
そんな透先生が本日、ハルさんという素晴らしい女性と人生の新たな一歩を踏み出される。
この人生の門出を同じ場所で見る事が出来て本当に幸せに思います」
あと30秒弱。
「それでは皆様、乾杯のご唱和を宜しくお願い致します。
お二人の末永いお幸せと御両家並びに御列席の皆様方のご多幸とご発展を祈念致しまして、乾杯!」
乾杯の唱和が聞こえる。
その後に割れんばかりの拍手が。
「太田先生」
席に戻ると神宮寺先生がスマホを見せた。
表示は1分30秒。
「凄いですね!」
「…こう見えてもあちこちで講演しているのでね」
こんなところで仕事の経験が活きたよ。
私はホッとしたのもあって少し汗ばんだ額をハンカチで拭いた。
これにてお役御免。