結婚ラプソディ
 ― 遠い昔に心を忘れてきました -

透先輩、こんな怖い言葉をプロフィールビデオで流すのですか。
ライトダウンした会場に流れるビデオ。
冒頭がこれって…闇ですな。

最初の1枚は。赤ちゃんの時の透先輩。
至って普通の赤ちゃんだった。
10歳離れている至先生が嬉しそうに透先輩を見つめている。

 - 兄と写っている0歳の時の唯一の写真です -

ご両親に喧嘩を売っているのか。
嫌味タラタラだな。
親族席の至先生を見ると苦笑いをしていた。

 - 幼稚園、小学校はつまらなくて嫌でした -

笑っていない透先輩。
写真の中の透先輩は遠くを見つめている。
一言でいえば『病んでる』
自分の心を閉ざした印象だった。

 - 私立の中学受験も断りました -

ますます病んでいる中学生の写真。
笑顔なんて微塵もない。
院長先生、よくもまあ自分の息子をここまで追い込んだなっていう感じ。

 - ただ、一度だけ通った桜並木のある高校が忘れられなくて -

その瞬間、見事なまでのどこぞの高校前にある桜並木が映る。

 - この高校に行こうと思いました -



映像が奥さんに変わる。

 - 最初はごく幸せな家庭でした -

えー!!こっちもか!!
この夫婦、どれだけ負の遺産を抱えているんだ!!
でも、少なくとも透先輩よりは幸せそうだ。

赤ちゃんの時の写真も、幼稚園、小学校、中学校も順調。
中2の時に、妹さんが生まれて…。
ご両親が離婚。
その後、シングルマザーになったお母さんが二人を育てる。
それでも、母と娘二人は幸せそうにしている。

 - 生活が苦しいのは分かっていました -

またあの桜並木!!

 - でも、どうしてもこの高校に行きたくて、母にお願いしました -

そして高校入学の写真が。
奥さん、嬉しそうに校門前で笑っている。

…この二人。
本当に目に見えない糸でぐるぐる巻きにされているかのような。



 - 高2の文化祭で -

透先輩がキャンパスに向かって絵を描いている写真。
何となく、楽しそうな先輩。
そういえば、よく入院している子供たちに絵を描いていたなあ。

 - ハルとなっちゃんに会いました -

文化祭と思われる写真には奥さんと小さい妹さんが。
ピースして笑っていた。

 - その時、描いた絵はずっとなっちゃんが大切に持っていてくれたようです -

激ウマ!!な絵の写真。
この人、職業間違えてるかも。
医者じゃなくて画家になれば良かったのに。
その絵の上手さに周囲もざわついていた。
高校の時に描いた絵なんだろ…。
凄いや。
またそれを大切に持っていた妹さんも凄いよ。

 - それからしばらくして、僕達は付き合うようになりました -

廊下で振り返る二人の写真。
本当に自然な表情だった。
ああ、この二人。
凄い力で惹かれたんだな、って思った。
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