結婚ラプソディ
「確かに。
アルコールは全般的に強いのだろうと思います。
…ただ、学生の時から気になっていたのは透が極度の不眠症だという事です」

…よくご存知で。

「一瞬さえ深い眠りにつけば、後は眠くない、と言っていました。
…裏を返せばどこででも眠れる、そして必要ならば起きる。
脳がずっと緊張し続けている証拠なのです」

うん、そうだよ。
もうそれは中学くらいからそうなんだ。

「特に酷くなったのは…
奥さんと一度、別れてからじゃないのかい?」

その問いに僕は声を上げた。

「そうだよ。
よくわかったな」

その返答に哲人は笑って

「当たり前だよ、何年一緒に過ごしたと思うんだよ。
…それはさておき、透の心に深く刻まれたハルさんと偶然再会して、二人は目に見えない力で引き合ったのはこういう経緯からもごく自然の事だと私は思います」

ほう…そうまとめてきたか。
そして再び僕に問う。

「ハルさんと再会してからよく眠るようにはなってないか?」

「…僕を盗撮しているの?」

哲人は笑った。
相変わらずの洞察力だな。

「…透にとって精神安定剤はハルさんだと思います。
ハルさんに一つだけお願いするとすれば…。
家では常に透の隣で寝てあげてください。
その時、手を軽く握るだけで透は大丈夫だと思います」

会場から笑いが溢れた。

「そして透。
お前には言いたい事は沢山ある。
お前のワガママにハルさんを振り回し過ぎだ。
体調が悪いのはお前が一番知っているはず。
どうか無理はさせないで。
それと小児科医として優秀な事も私はよく知っています。
常に全力投球しています。
彼には到底敵いません。
ただ…今まで自分の全てを医療に捧げてきたベクトルをホンの少しだけ、ハルさんにも向けてください。
いや、ハルさんだけではなく、お腹にいる子供にも」

医師にとって難しい事を言ってくれてるよ。
哲人、いつかその言葉をそっくりそのまま返してやる。

けれど…そうだね。

目標をそこに持っていかないと家庭崩壊も起こりかねない。

僕は頷いた。

それを見て哲人は微笑んで頷く。

「長々と話ましたが、私が願うのはただ一つ。
一番の親友が末永く奥様と子供達に囲まれて幸せに暮らしてくれたら、と。
本日はこのような素晴らしい宴にお招き頂きまして心より御礼申し上げます。
ありがとうございました」



カンペなしで完璧にスピーチしてくれた。

ありがとう、哲人。
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