結婚ラプソディ
「皆様、メッセージありがとうございました」

と頭を下げると拍手が起こる。

ただ…一つだけ。

僕を納得させるような回答を頂きたい。

「あの、盗聴は誰がしたのですか?」

黒谷先生がニヤニヤ笑っている。



貴女ですかー!



「先生、これですか?」

黒谷先生の言葉で再度映像が流れる。



病室。
横たわっているハル。
僕はベッドに腰を掛けた。
白衣を着ているから仕事中か。

ハルの痩せ具合が酷い。
つわりが一番酷い時だ。

「本当はこういうところで言うつもりはなかった」

映像の中の僕が天を仰いだ。

「でも、時間がない」

僕は大きく深呼吸をして白衣のポケットからブルーボックスを出して指輪を取り出す。

キラキラと輝くダイアモンドのエンゲージリング。
それをハルの左薬指にはめた。
ピッタリでハルは目を丸くする。

会場内からざわつく声が聞こえる。
穴があったら入りたい。

「ハルが寝ている時にコッソリ測った」

映像の中のハルは苦笑い。

「一回しか言わないからちゃんと聞いて。
…僕と結婚してください」

しばらく二人は見つめ合っていた。

やがてハルは小さく頷くと

「はい」

と微笑みを浮かべ、しっかり返事をした。

会場内から拍手が起こる。
もう、逃げたい。



映像の中の僕はホッとした様子でハルの額にキスをすると、胸ポケットから折り畳んだ紙を取り出す。

「ハル、これも書いて」

渡したのは婚姻届。

「ハルが退院したら、一度僕の実家に行こう。
証人欄には父と兄に書いて貰おうと思う」

「うん、そうね」



そこで映像が終わった。

会場内、もう笑いやら何やら…。

一生、僕は言われ続けるだろう、この事を。



「盗撮じゃないかー!これ!!!」

と叫ぶと更に黒谷先生。

「続きがありまして…」

写真が画面に映る。

入院中、ハルと黒谷先生がピースして写真に写っていたり…。
病室でハルと江坂先生が楽しそうに会話している様子や…。
兄さんとハルが何故か医局のソファーに座っていたり。
ハルが退院する時、僕と手を繋いで歩いている様子とか。
あと、何故か僕の院内を歩いている写真や入院中の子供達と遊んでいる写真があった。

「…ハル」

僕がハルを見ると

「透、映像の撮影を許可したのは私。
…だってこんな映像なんて普通、残らないでしょ?
私と透の間には写真もほとんどない。
高校生の時も数枚しかない。
再会してから…結婚式まで1枚もないのよ。
今日は沢山の写真があるだろうけど、それまでがないの」



…あ。
本当だ。
気が付かなかった。
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