結婚ラプソディ
「黒谷先生、入院中は時間を見つけては部屋まで来てくださったの。
色々と話をしてスマホなどで二人で撮った写真を見せてって言われて…
ないっていう事に気が付いて。
黒谷先生が『じゃあ、私が高石先生の写真、隠れて撮ってきますよ!!』って最初はそんな感じ」

ハルは俯いた。

「で、いずれは高石先生が何かアクションを起こすだろうと思って、盗撮カメラを仕掛けました。
すみません。ちょっとおせっかいでした」

黒谷先生が謝る。

「いえ、黒谷先生は何も悪くないの。
私の、ちょっとした独占欲とストーカー欲を叶えてくれたの。
だって私、透が病院でどんな仕事をしてどんなふうに過ごしているかなんて知らないもの。
それに、プロポーズの言葉なんて普通の人は映像なんかで残らないし」

自分の顔が赤くなるのがわかる。

怒っているのではなくて、嬉しいような恥ずかしいような。

「透!良かったな!!」

兄さんが叫ぶ。

「お前、こんなの、一生の宝物だぞ!!」

僕は俯いた。
うん、わかってる。
皆が貴重な時間を割いてメッセージをくれたんだ。

病院の関係者は仕事の合間に僕に見つからないよう集まってくれたに違いない。
兄さんはわざわざ休みに大学まで行ってる。
大学の研究室も休みに集まってくれている。
小児科の誰かが休みの日に僕の家族や親戚を回ってくれたのだろう。

大きく深呼吸をして僕は顔を上げた。

「本当にこんな手の込んだものを…。
皆様、たくさんのお祝いの言葉、ありがとうございました」

大きな拍手が起こる。

盗撮は勘弁して欲しかったけど…。

まあハルが望んだなら仕方がない、か。

顔を上げると視界が歪んだ。

何も悲しくないのに…。
勝手に涙が。

「相変わらず、泣き虫先生だな」

哲人が冷やかしで言うのが聞こえる。



…どうもありがとう。
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