結婚ラプソディ

☆ 高石 ハル ☆

透、泣き過ぎ。
隣の席に帰ってきた透の背中を思わず擦った。

黒谷先生がニヤニヤしながら写真撮るので思わずピースしてしまった。
…後で透が見たら怒るかな。

でも、このアンバランスさが透の魅力でもあると私は思う。

司会者が今度は私を呼ぶ。

ああ、いよいよ手紙なのね。



…多分、透。
あなたの涙腺は更に崩壊するかも。



私はマイクの前で深呼吸をして手紙を開いた。

「本日は沢山の方々にお祝いして頂きまして心より御礼申し上げます」

頭を下げた。

「今日のこの日の姿を一番見せたい人はここにはいません」

私は会場中を見回す。

「6年前にすい臓がんで亡くなってしまった母です」

チラッとナツを見る。
亡くなったのはナツが高校を卒業してすぐの話。

「母は父と離婚してから女手一つで私と妹を育ててくれました。
離婚した時、私は高校進学を控えていました。
本当に生活も大変なのに、私の我儘を叶えてくれました。
あの、桜並木の綺麗な私立高校に行きたいという願いを」

透、もう俯いている。

「仕事を何個も掛け持ちをして、働き続けて高校に行かせてくれました。
そこで、透と出会ったのです」

あの時の気持ちが。
ぐっと胸に押し寄せてくる。

「母には透と付き合っている事は言っていませんでした。
けれど、ある日。
『誰かいい人がいるの?』って聞かれた時があります。
『どうして?』と返しました。
恥ずかしくてちゃんと言えなかったのです。
『毎日、すごく楽しそうだから。色々と無理なことをお願いしているのに。
だから誰かと付き合っているのかなあ』って」

ああ、透。
また泣いた。

「『ハルにそんな笑顔をもたらしてくれる人ってきっといい人なんだろうね。一度会ってみたいわ』
そう言った母に透の事を聞かれたのはその一度きりでした。
…こんな事になるなら、あの時、付き合ってると言って会って貰えばよかったなあって。
今更ながらに後悔しています」

本当にね。
恥ずかしがらずにちゃんと言えばよかった。
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