結婚ラプソディ
透は気配とか少しの物音で起きてしまう。
私は出来るだけ、気配を消すようにして歩く。
そっとソファーの隣に座った。

この時間、一番熟睡できているみたいで良かった。

透の小さな寝息が聞こえる。
家にいるときくらいは安心して寝てほしい。

そんな様子を見ているとたまらなく愛おしく思う。
心が震える。
きっと、好きで好きで仕方がないのだと。

ソファーに背中をくっつけ、目を閉じる。
こうしているだけでも、何とも言えない感覚に陥る。
その体に触れなくてもこの場に一緒にいるだけで。
それだけで幸せなのだろうと思う。

しばらくして、唇に何かの感触。

目を開けると、いつの間にか目の前に来ていた透の顔が離れた。

「おはよう、ハル。
今日は早起きなんだね」

窓の外はさっきより少し明るくなっていた。

「…おはよう、透」

私の言葉に透は微笑んだ。

「今日、どこか出かけようか。
ハルの体調さえ良ければ」

…透、怒ってないの?

何もなかったかのように言う透。

「うん、そうね…」

ああ、また。

胸が張り裂けそう。

「ハル…?」

自分の手のひらに涙が零れ落ちた。

「ごめん、透」

「…どうして謝るの?」

「だって、酷いことを…」

「謝る必要なんてないよ。あれくらい、これから先、もっとあるだろうし」

透は右の人差し指で私の涙を拭った。
冷たい指先が頬まで来る。

「僕の方こそごめんね。
ハルが一生懸命、式や披露宴をどうにか無事に終わらせようと思っていてくれているのに」

そういう、私を想ってくれる透の心が。
私の心を揺さぶるの。

また心が震え始めた。

体も震えそうになったその時、透は私の体をぎゅっと抱きしめた。

「ハル、それにしてもまだ起きるには早い。
上で一緒に寝ようっか」

私は透の腕の中で頷く。

心の震えが少しずつ、落ち着いていくのを感じた。
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