結婚ラプソディ
下品とも言える質問。

それに対してきちんと答え、綺麗な想い出、と言ったハルさん。

透、お前の嫁は最高だな。

それがナツのお姉さんなんだから俺も幸せだ。

気まずくなりそうな雰囲気が一気に穏やかな、温かいものになった。



「じゃあ、これで最後にしましょう」

ハルさんに箱を差し出した。

「じゃあ、これで」

ハルさんが俺に渡した紙。


…。



最後の最後にこれか。



「速人!」

思わず叫んだ。

「お前が読め」

透が一瞬、舌打ちしたように見えた。

「…速人の質問?」

目を細める透。

「じゃあ、読みますよー!!」

一つ、咳ばらいをした速人。

「お二人が再会したのは3月下旬だとお聞きしています。
で、妊娠発覚が4月下旬。…入院中にシタのですか?」

爆笑の渦。

透は額に手を当ててそのまま髪の毛をクシャっと握る。

「…入院中にどうやってするんだ?」

透の凍てついた声が聞こえる。

「やろうと思えばいくらでも出来ますよ」

速人の言い分に透はため息をついて

「お前は出来ても僕にはそんな事、出来ないよ」

「じゃ、いつシタんですか、先輩?
それとも先輩は念力か何かで奥さんを妊娠させたんですか?」

速人、透を煽りすぎ。
本当に後で強烈な仕返しをされるぞ。

「…そんなに聞きたい?」

速人の他にも数人、頷いているぞ。
俺は以前に本人からちょっと聞いたことがあるから別にいいけど。

「ハルが退院して数日後。
確か僕は45時間、連続勤務をしていたんだ。
その帰りに電話を掛けてきてくれて。
それだけでも十分幸せだった」

何となく、わかるその気持ち。
異常な勤務を終えて、自分の好きな人からそういう電話が入るとホッとする。
俺もつい最近、あったな。

「凄く月明かりの綺麗な夜で、桜も満開で。
久々に幸せな気分で病院から歩いて帰っていたんだ。
…家に帰ってしばらくしたら終電に乗ってハルがわざわざ家に来てくれたんだよ。
僕の事を心配して」

そう言うと透はハルさんを見つめた。
ハルさんも透を見つめる。

「…医師になってからこんな風に誰かに心配された事もなかった。」

透の孤独。
それは出会った時からずっと感じていた。
誰がどんな言葉を掛けようとも、態度で示しても、透の心の奥底には届かなかった。

その孤独をごくごく自然に埋めたのはハルさんなんだ。

「本当に幸せと思った。
僕、疲れているはずなのにハルをドライブへ誘った」

「え、車の中?」

速人ー!!
お前の口を縫ってやろうか?

「違うよ。
夜桜を見に行ったんだ、僕達の母校まで。
あの月明かりと照らされた桜をもう一度二人で見たいと思って。
まだ、ハルの体調は万全ではないのにね。
そんな風に連れ回した事がその時分かれば主治医の兄さんに僕が怒られていたね」

透のお兄さんは頷いている。

「…楽しかった。
多分、夜中2時くらいにこんな事にすんなり付き合ってくれるのもこの世ではハルしかいない。
僕はその時、この人と絶対に結婚すると思った。
家とか親戚とかを考えるとゾッとするけど、それもねじ伏せてやるって思ったんだ。
ただ、ハル。
僕と付き合うのはOKしてくれたけど…親だね、問題は。
高校の時のトラウマをずっと抱えているからすんなり結婚まではいけないとは感じていた」

ハルさんはさっきからじっと透を見つめている。
何か言いたげな表情を浮かべて。

「家に帰って、ハルの体調を考えたらそのまま寝ようと思ったけど。
僕だって普通の男だからね。
目の前にずっと想い続けていた人がいるのに寝られる訳がない。
子供が出来たのは間違いなくその時だよ」

満足した?と透が付け加えると速人も素直に頷いた。
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