結婚ラプソディ
「お兄ちゃん、それで少しは生活を変えてくれるかな…」

ナツがため息混じりに言うので私は不安になる。

「どういう事?」

「…先生から聞いた話なんだけどね。
どの勤務医も当直、オンコールの嵐なんだけど特にお兄ちゃん、紺野総合でこき使われているって言ってたよ」

「水間さんがそんな事を?」

ナツは頷いた。

「先生も酷いけど、お兄ちゃんはその上を行くって。
医師としては本当に優秀だって言っていたけど、その前に潰されるんじゃないかって心配している」

確かに。
当直は勤務時間に入っていない。
拘束時間が異常に長い。
なのに手当も微々たるもの。

ブラック企業の代表じゃないかな。

時給にしたら一体いくらなのよって思うくらい。
時給に換算したら私が働いていた時の方が多い。

「お兄ちゃんくらいの医師なら開業しても良いと思うけどな」

私はため息をつく。

「開業って簡単に言うけど、そんなお金、借入しても返すのが大変だし」

開業するという事は会社の経営をするのと一緒。

医師と経営者の両立なんて今以上の困難が目に見える。

「奥さんがいて、子供が出来て、少しでもお兄ちゃんの感覚が変わればなあ…。
周りに任せる所を任せてさ」

ナツが言いたい事もわかるな…。

透は責任感が強いからどうしても他人に振れないと思う。

「そうしないと若手が育たないんだって先生は言ってた」

…確かに。

ん?

さっきから少し気になる事が。

「ナツ、水間さんと付き合っているんでしょ?」

「…何?」

今更、何だ?という顔をしている。

「ずっと【先生】って呼んでるの?」

ナツの顔が赤くなる。

「え、何か変?」

「…いや、普通付き合っていたら名前やあだ名で呼ぶんじゃない?」

「呼べるわけないよ〜!
私の中では先生だもん」

ナツ、その純情さはこれからも忘れないで欲しいな。
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