結婚ラプソディ
三次会は22時に終わった。



ここでほとんどの人は解散。

「いち、にー、さん、しー、ご」

速人が最後まで残ったメンバーを数える。

「いや、僕はもう帰るから」

「ダメです、先生。
俺と一緒に明日、心中してください」

速人が嫌がる兄さんの手を離さない。

「僕はお前みたいに若くないからこれ以上遅くなれば明日の当直はダメだ、もたん!」

僕も兄さんの腕を掴んだ。

「透、お前もかー!」

兄さん、肩を下げて項垂れて降参。

「何か俺、異色なんで遠慮しましょうか?」

祥太郎君が苦笑いをしながら頭を掻くと。

「いやいや、是非ご一緒に!
ここにいる連中を医師と思わないで。
ただの飲んべえの集まりだから」

速人、お前が言うな!



四次会は兄さんの友達が経営している創作料理の店。
ここは僕の今、住んでいるマンションからもほど近い。

「今日はお疲れ様でしたー!!」

速人が今日、何度目かわからない乾杯の挨拶をする。
本当にお疲れ様、だよ。

「ああ、これで透先輩と気軽に遊びに行けなくなる」

「誤解を招くような発言は止めろ、速人」

僕は速人を睨んだ。
お前が言うと女遊びだと思われる。

「先生、そんなに遊んでたの?」

「遊んでません」

祥太郎君の質問をバッサリと切り捨てた。

「遊びに行けるような、良い身分じゃないので」

休日なんてほぼない。

たまに飲みに行くくらいだ。

「そうそう、それ。
俺が心配しているのはそこなんだ」

哲人が話に入ってきた。

「仕事命なのはわかるけど、たまには家に早く帰れよ。
ハルさん、我慢している事も多そうだし」

「…そうなんだよね。
今もきっと我慢している」

僕はため息をついた。

「もっと、本音を言って欲しい。
ハルに直接、それを言ったところで絶対に言わない。
ハルが少々ワガママを言っても、普段接しているモンスターペアレントに比べたら全然問題にならないのに」

速人がニヤニヤしている。

「先輩、幸せな悩みですね」

「お前には一生、わからない悩みかもな」

哲人の冷たい声が速人に向けられた。

クスクスと笑いが聞こえる。

速人は憮然としていた。
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