結婚ラプソディ
そういえば。
あの夏の暑い日も。
確かなっちゃんの誕生日を祝った気がする。



高校3年の夏休み。



『ナツの誕生日ケーキを買いに行きたい』

ハルの家でハルは夏休みの宿題、僕はすでに夏休みの宿題を終わらせていたので受験勉強をしていた。
急にハルが言い出して驚いたっけ。
なっちゃんは保育園に預けていたんだ。

『じゃあ、保育園に迎えに行くまでにケーキを買いに行こう』

僕達は勉強を止めて近所のケーキ屋さんまで手を繋いで歩いた。
真夏のカンカン照りの中、歩いたのを今でも覚えている。

家に帰ってからどうも勉強する気にならなくて。
ふと、ハルと目が合ってその後は…。
気持ちが異常に高ぶっていた事だけは覚えている。
あとは真っ白。

夕方になってなっちゃんを保育園まで迎えに行ったけれど、2人とも黙ったまま手を繋いで歩いていた。
物凄く恥ずかしかったのを覚えている。

家に帰ってからは。

『わー!!おにいちゃん、おねえちゃんありがとおー!!』

なっちゃんがケーキを見た瞬間の顔は、目がキラキラと輝いていた。
それを見て、いつかハルとなっちゃんと3人でこんな風に過ごせたらいいなって思った。

結局、なっちゃんの誕生日を祝ったのはその1回きり。





「透、どうしたの?」

ハルの声で我に返った。

「…遠い昔を思い出していた」

「ふうん」

ハルは冷蔵庫からケーキを取り出してなっちゃんの前に出した。

「わー!!ホールケーキなんていつ振りだろう!!」

その笑顔、昔と全然変わっていない。
うん、変わっていない。
その事に僕は少し安堵した。

「なっちゃんはもう覚えていないかもしれないけれど」

笑顔のなっちゃんに話しかける。

「今からちょうど20年前もこんな風にお祝いしていたんだよ。
今のなっちゃんも昔のなっちゃんも、ケーキを目の前にした時の顔、変わっていない」

「それって私がまだまだ子供ってこと―!?」

その発言に僕もハルも大笑いした。

「少しだけ、大人になったかも」

ハルが茶化すとなっちゃんは頬を膨らませた。

「えーえー、どうせ私は子供ですよ。
24歳だけど、子供ですよー!!」

20年の時を経て、また3人で過ごせた奇跡。
多分、もう二度とないと思うから心に刻むようにこの時間を大切に過ごす。


なっちゃんの存在が。
僕の小児科医としての原点であり、小児科医になったからこそ。
もう一度ハルに出会うことが出来た。

僕の歩んできた道は医師としては最短で来た。

けれど

恋愛はかなりの遠回りをした。

が、それは決して間違いではなかった。
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