夕月に笑むジョリー・ロジャー
天気の話でもするかのように軽い調子で告げられたけれど、内容は酷く意地悪い。

深く考えなければ……というよりも、別段、与えられていたはずの人生を取り戻すことを要求したって、何も問題はないはずだ。
……問題はない、そのはずだけど、事態はそう単純なものじゃなかった。

だって、私がここで生き返ることを選択したら、本来亡くなるはずだった人が、代わりに命を落としてしまう。
それがあるべき形なのだからと言ってしまえばそれまでだけど、果たして今回の事情を全て把握した上で、それでも私にそう言ってくれる人は、一体何人いるだろう。

手違いだったから、戻す。
そう言われただけであればすんなり受け入れたはずだけど、こうも裏側を知ってしまって、そんなことできるはずがない。


『──朝希』


名前を呼ぶ声が蘇る。時に切なげに、そして時には悲しげに……けれども、大抵は、愛しげに。記憶の中で娘の名を呼んでいるその人物は、間違いなく、私のお母さんのものだ。お母さんは、私の下したこの判断を知ったとしたら嘆くだろうか。それとも──……一瞬考えはしたけれど、答えを出すのにそう時間はかからなかった。回答は、決まっていたようなものだ。最初から、そう定められていたかのように。

「……いえ」


多分、これが運命なんだと思った。

私がこうして間違えられて、それを受け入れるまでの、全てが。


躊躇いはなかった。
生きていたらどうなっていただろうと思わないと言えば嘘だけど……取り違えられた運命を正してまで、戻したいとは思わない。

それは勇気や優しさじゃなく、諦めからくるものだったけど。

「構いません…………私は、別に、このままで……」

「そう? じゃあ貴女はこのまま……、」

向こうとしても、余計な手間が省けるからなんだろう。

このまま私の死で処理をする。
そういう主旨の発言をされるはずだった。

けれども彼女は不自然な部分で言葉を区切ると、何故か無言で柳眉を逆立てる。

「…………何?」

不意に上方へと視線を向けた女性が言わんとするところが分からずに、私もつられて天井を見た。

星座、だろうか。
深い青とも藍とも言えるような色合いの天井に光り輝く小さな金色の点が不揃いに並んで淡く光を放っていた。

残念ながら私は星座の知識はないから、本当に夜空が描かれているのか、それともまた別の何かを描いたものなのかは判断し難いところだけれど。
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