夕月に笑むジョリー・ロジャー
「……煩いわね。良いじゃない、この子はそれで納得しているのよ」

また、女性が不機嫌に誰かへ向けて言葉を紡ぐ。
だけど、どんなに耳を澄ませてみても、物音一つ聞こえない。

どういうことだろう。直接彼女に語りかけているってことなのか、はたまた普通の人間には聞こえない声が部屋には響いているんだろうか。

事態が理解できていないのは私に限った話じゃないのか、彼女が周囲に侍らせている男性達も、不思議そうに彼女のことを見つめてる。
何かしら彼女に対してしていた動作も完全に止まってしまっているのに、それも気にならない程に彼女の方も会話に集中しているらしい。

「……ああもう、分かったわ! だから貴方は黙って頂戴」

不快そうに言い放った彼女は、そこで唇を閉じてしまった。
それきり何も言わないから、多分、会話は一区切りついたんだろう。

しばらく思考を巡らせていたらしい彼女は、「……そう、そうね」と呟くと、ようやく私へと橙の双眸を向けてきた。
初めて向けられたその顔へと浮かんでいたのは、自信に満ちあふれている笑みだ。

「チャンスをあげるわ」

「……チャンス……ですか?」

「そうよ。喜びなさい」

また違う男性の髪を撫でながら、女性はもう私を見ることもなく、視線は男性達へと向けつつ口元に色濃い笑みを浮かべてる。
私の反応に一瞬たりとも興味を示さないその姿勢には、彼女があくまで神様……支配階級に位置していて、それが揺らぐことは決してないと、彼女が信じて疑っていないことを示していた。

「一年以内に私の試験に合格したら、その世界で生き続けることを許してあげる」

高いところから一方的にそう告げて、彼女は楽しげに頬杖を突く。

「失敗しても特に貴女に不利益はないわ、そのまま本来の流れ通りにあの世に行って貰うだけ」

「それは……、」

「貴女の返答は聞いていないの」

ぴしゃりと遮って言い切られてしまえば最後、私にはそれ以上会話を続ける権利はない。
素直に唇を閉じた私の耳に、深々とした女性の溜息が聞こえてきた。

「煩いのよ、そうしないとあの男が。だから一年は適当にでも何でも良いからそこで過ごして」

どうやら、会話をしていた相手は男性……それも彼女よりは身分が上か、そうでなくとも適当には扱えない方らしい。
未だにそちらへ意識が集中しているのが何より明確な証拠だろう。

とにかく相手方の希望を叶えることが重要だとでも言うようにして女性が指を高く鳴らし、左側の壁を指さした。
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