大人の初恋
 その『成瀬部長』がこのキスマークの犯人だと知ったら、彼女は何て言うだろう。

 思い出すのも恥ずかしい。

 彼ってば、

『クールな如月主任が、焦る顔が見てみたい』
 なんて悪戯っぽく笑いながら、今でもまだ疼くくらいの濃いアトをつけた。

 そう。今朝は彼と泊まったホテルから、職場に直行してきたんだ。


 私は少しばかりの罪悪感と優越感を持って、彼女のくるくると変わる表情を見つめた。

 アキちゃんは、仔犬みたいな人懐っこい可愛らしい子で、2年目のヒヨコちゃん。
 たまたま資格を持っていてここに配属されたのを、いつでもブーブー言っている。
 
 我が監査部は、部とは名ばかり、スタッフ15人程度のこじんまりとしたところだ。
 内部のチェックが主な仕事で(風紀委員みたいなもんね)、営業やマーケティングみたいな華やかな部とは一線を引いた地味な部署。

 仕事も、残業続きの忙しい部署ではなく、繁盛期以外は定時で帰れる。

 とはいえ、監査の結果は役員会にも報告されて、支所にABCDの評定がつき、それが支所毎の給料にも影響するから、権限はある。

 それに、会社内部のチェックをするんだから、強気な営業課長やなんかでも頭が上がらない、顔が利く人を配置する。

 すなわちここは、ある程度まで出世した定年前のオジイちゃんばかりの部屋なのだ。
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