大人の初恋
 彼は、これまでにないほど怖い顔をして押し黙った。

 玄関先で私が何気なく手に取った写真は、栗毛のフワリと笑った顔の、少女のような幼い女性の黒く縁取られた遺影。
 

 彼は青ざめた顔を強張らせたまま、私を凝視している。

 
「『性格の不一致』?『遠くの町にいる』?『本気じゃない』って責められた?全部ウソじゃない。何で?」

 私は混乱したままに迫った。

 そんなウソに何の意味があるのか、私を口説くための方便だったのか。

 未練って、なんなのか。

 とにかく、彼の真意が知りたい。

「ねえ、私は貴方が好き。初めて本当にヒトを好きになったの。
 教えて?貴方の真実だけを。
 私はただ、本当の貴方を知りたいの」

 私は彼の胸に身を寄せた。


 厚いカーテンの隙間から西日の朱が射し込んだ。彼の繊細な指が、無意識に私の髪を鋤いている。

 長い沈黙の末、彼が重たい口を開いた。

「…そんなに知りたい?」

 私はコクリと頷いた。

 彼は長い溜め息を吐き、私の身体をそっと離した。

「『真実』にさほど価値があると、僕には思えないけどね」

 皮肉っぽく嗤った後。

 彼はそう古くもない昔話を、淡々と語り始めた。
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