食わずぎらいがなおったら。
複雑に何度か曲がった後、屋台の隣が屋根とテーブルの簡易食堂になっているお店についた。

赤い顔の大人達に囲まれて、健太が楽しそうに何やら食べている。



「健太ーー」

「香ちゃん!みて!スーパーボール!」

「勝手にどっか行っちゃダメって言ったでしょ」

「オレ、スーパーボールみてくるっていったよ。香ちゃんくるのまってたのに」

おっと、逆ギレだ。ため息をつく。

そうだ、健太は自信満々で、自分に手助けなんていらないと思ってる。



「健太。迷子じゃなくても、心配するから」

睨んでくる。

ちがう、たぶんこれだと響かない。




しかたない、奥の手だ。

「ねぇ、さみしいから置いてかないで。離れないでそばにいて」

「しょうがないなあ」

「ずっと手をつないでて。いい?」

「…いいよ」

よし。これならたぶん、今日は離れないでいてくれる。

おー、となんだか低い声があがっている。私の育児スキルに恐れ入ったか、酔っ払い達。




「すみません、うちの子がお世話になりました」

平内のお友達のみなさんにお礼を言って、行くよ、と健太に声をかける。

「えー、オレまだ食べてる」

「香ちゃんも一緒に食べてきなよ」

屋台のお兄さんも親切だけど、平内が嫌がってそうだし、退散したほうがいい。




「ありがとう。でも健太と射的やるって約束してるし、遅くなっちゃいそうだから」

「オレおそくてもへいきだよ」

「バスなくなったらどうすんの。怖いおじさんとか来たら危ないでしょ」

「じゃーやきそばかってよ」

「だから、焼きそばは私が作ってあげるから」

健太ー。ここは言うこと聞いてよ。



「なんか2人の世界だなあ。いいな健太。こんなきれいなお姉さんと2人きりでお泊りか」

「そうだよ。オレ、香ちゃんとけっこんするんだよ。ね?」

かわいいなぁ、健太は。にこっとしておく。



「おばさんとは結婚できないぞ、健太」

「香ちゃんはおばさんじゃないよ」

「そういう意味じゃねえよ。ママの妹はダメなんだよ」

ちょっとちょっと、酔っ払いのみなさん。

余計なこと言わないでよ、子供が言ってるだけなんだからさ。




「射的って入口のほうにあったやつ?行ける?」

平内に聞かれたけど、そもそもここから境内にも戻れなそう。

連れてく、とつぶやくと健太のほうを向いた。

「行くぞ健太。早くしないと、香ちゃんもらっちゃうぞ」

そういうと健太が慌てて立ち上がった。





ほぉ。女の子だけでなくて子供の扱いもうまいんだ。

さすが。
< 35 / 85 >

この作品をシェア

pagetop