せめて、もう一度だけ
「諒との子どもだよ。


彼は、離婚するまではって避妊してくれてたから」



嘘は、つけなかった。




「そっか、ならいいんだ」


「ほんとに、それでいいの?


諒との子どもかもしれないけど、私は彼が好きなんだよ?」


「美希子も母親になるんだから、気持ちは落ち着くだろ。


俺も、一生懸命支えるから。


子どものことを考えれば、その男とは別れられるだろ?


ダンナとの子どもを引き取ってまで、美希子を選ばないはずだよ。


俺も、子どもを渡す気はないし」



一瞬、恐ろしい考えが浮かんだ。



『赤ちゃんを産まなければいいじゃない』



今まで、赤ちゃんを望んでいたのに授からなかった。


授かったら、望んだ妊娠ではなかった。


中絶したら、諒と別れて遼くんと一緒にいられるかもしれない。


遼くんと、離れたくない。




「中絶したい、って言ったら?」



衝動的に、つぶやいてしまった。





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