せめて、もう一度だけ
運転席に駆け寄ろうとした時。


助手席から、若い女の子が降りてきた。


「遼、先に入って準備してる?」


笑いながら遼くんに話しかけている。


ふたりは、とってもお似合いで。


私の存在なんて、視界に入っていないだろう。



そうだよね。


私のことなんて、もう必要ないよね。


夫がいる、めんどくさい女で。


しかも、夫の子どもを妊娠してて。


もう、新しい彼女ができたんだ。


私は、彼女にもなれなかった。


何も言えず、うつむいてその場を離れた。


遼くんも、私に気づいてないだろうし。


来なきゃよかった。


やっぱり、諒と生きていくしかないんだ。


あきらめられない気持ちと、どうでもよくなった気持ちと、涙が入り交じってぐちゃぐちゃで。


家に着いて、ベッドに倒れこんだ。



< 74 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop