巫部凛のパラドックス(旧作)
「ああ」俺は短く返答し、この季節と同じように、春を告げる告白という言葉を待っていた。、
「あっ、あのう、そのう……」
天笠さんは、若干挙動不振ぎみに周囲の地面に視線を泳がせていたが、突然顔を上げると、
「なっ!」
俺が一言発する間だった。手を後ろに回したと思ったら、勢い良く腕を振り上げるが、その手には何か黒光りするものが握られていた。
「パンッ!」
爆竹を一発炸裂させたような乾いた音が音楽室に響く。何事かと音のした方に視線を向けると、天井に向けている黒光りした物体から煙が立ち上り、わずかな火薬の臭い。焦点が合ってきた俺の目の前にあるものは間違いなく拳銃だった。えっ? これって本物?
「あんたも、不運よね。あいつと関わらなければ死ぬこともなかったのにね。でも、残念、あんたはここで死ぬのよ」
そう言って天笠さんは、握っている物を俺に向けた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、なんで君が……」
やっと言葉になってくれた口に感謝し、何故俺がこんな事に巻き込まれるのかと逡巡してみたが、さっぱり心当たりがない。この前のメールやっさっきまでのしおらしい態度と百八十度どころか一回転半くらい違うじゃねえか。何がどうなってやがるんだ。
「何にも知らないって顔をしているわね。まあ、このまま殺しちゃってもいいんだけど、さすがに意味も分からなくて死ぬのは嫌でしょ。死ぬ意味もわからない雑種を消すなんて私も目覚めが悪いものね。時間が惜しいけどここは教えてあげるわ」
銃口を俺に向けたままゆっくりと天笠さんは語り出すが、いきなりの変貌に思考がついていかない。
「あんたは、あの子に会ったでしょ」
「あっ、あの子?」
「狩人よ。私達の組織と対立する存在」
「狩人?」
激しく動揺しまくっている俺は天笠さんの言葉を反芻することしかできない。
「もう、本当ににわからないの? それとも本当のおバカなのかしら? まあ、どっちでもいいけどね。特別にもう一回聞いてあげる。あなたは、先日の放課後、ここの屋上で狩人に会わなかったかしら?」
「屋上って……まっ、まさか、ゆきねの事か」
「ゆきねっていうの。まあ、こっちは名前さえ知らなかったんだけどね。でも、これではっきりしたわ、あなたはあの子の仲間ってことよね。じゃあ、死んでもらうわ」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、仲間になったっていうか、勝手に巻き込まれただけなんだけど」
「ふーん。でも、この世界の秘密、知ってるんでしょ」
「秘密って?」
「平衡世界やバグの存在よ」
「っ!!」
「ほらやっぱり知ってるんじゃない。この事は私達しか知らない事象なの。一般人に知られたとあっては、その存在を消すしかないのよね」
ものすごく冷徹な声なのだが、まさか、ここで俺はあっさり殺されちまうのか? 若干冷静になりかけたので、落ち着いて考えみるが、ついさっきまでおっとりした口調の天笠さんが、いきなり豹変した。しかし、ゆきねの事を知ってるし、何がどうなって……、まさか、ゆきねが言ってたやつらって天笠さんの事だったのか?
「きっ、君たちの目的はなんなんだ」なんとか、腹の底から声を絞り出す。
「もうすぐ死ぬんだから聞いてどうするの? まあ、いいわ。冥途の土産に教えてあげる。地獄の案内人にでも自慢するといいわ。いい? 動かないで聞きなさい。眉一つでも動かせば、あっと言う間に動かない肉塊のできあがりよ」
若干低めの声での脅し文句に怖さ倍増だ。天笠さんはゆっくりと銃を下ろすと、語りはじめた。
「あなたは、この世界をどう思う?」
「この世界って? いま、俺たちが生活をしている世界ってこと……か?」
「そうよ。この何もかも行き詰った世界。地球由来の資源を貪り、人間以外の生物の命をなんとも思わない、己が欲求のためだけに生きている人間が蔓延っている世界よ。人類の進歩も望めない閉塞しきった世界。残るのは、このまま資源が枯渇し、奪い合いを始める愚かな人間だけよね」
いやいや、そりゃ相当なネガティブ思考だぞ。
「私達天笠研究所は、この先の人類はいかにあるべきかを研究するために立ち上がったのよ。でも、研究を進めれば進めるほど、この先の人類に明るい希望はない。いくら、化石燃料を減らし、自然エネルギーを使ったって、たかが知れている。人類の欲望は飽くなきものだから、しばらくすればまた化石燃料を奪い合い、地球を傷つける。このまま地球を痛め続ければどうなると思う?」
「どうなるって……」
「最終的に地球のエネルギーはゼロになるわ。人類はいなごの大群と同じよ。資源を貪り続け最終的には空にしてしまう。唯一違うところは、他に逃げ込む場所が無いってこと。資源を食い尽くした人類に待っているのはそう、滅亡しかないのよ」
いきなりの大演説だが、この女は何を言ってるんだ? 地球のエネルギーだの滅亡だの。いきなりすぎて言っている意味が半分もわからん。
「あっ、あのう、そのう……」
天笠さんは、若干挙動不振ぎみに周囲の地面に視線を泳がせていたが、突然顔を上げると、
「なっ!」
俺が一言発する間だった。手を後ろに回したと思ったら、勢い良く腕を振り上げるが、その手には何か黒光りするものが握られていた。
「パンッ!」
爆竹を一発炸裂させたような乾いた音が音楽室に響く。何事かと音のした方に視線を向けると、天井に向けている黒光りした物体から煙が立ち上り、わずかな火薬の臭い。焦点が合ってきた俺の目の前にあるものは間違いなく拳銃だった。えっ? これって本物?
「あんたも、不運よね。あいつと関わらなければ死ぬこともなかったのにね。でも、残念、あんたはここで死ぬのよ」
そう言って天笠さんは、握っている物を俺に向けた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、なんで君が……」
やっと言葉になってくれた口に感謝し、何故俺がこんな事に巻き込まれるのかと逡巡してみたが、さっぱり心当たりがない。この前のメールやっさっきまでのしおらしい態度と百八十度どころか一回転半くらい違うじゃねえか。何がどうなってやがるんだ。
「何にも知らないって顔をしているわね。まあ、このまま殺しちゃってもいいんだけど、さすがに意味も分からなくて死ぬのは嫌でしょ。死ぬ意味もわからない雑種を消すなんて私も目覚めが悪いものね。時間が惜しいけどここは教えてあげるわ」
銃口を俺に向けたままゆっくりと天笠さんは語り出すが、いきなりの変貌に思考がついていかない。
「あんたは、あの子に会ったでしょ」
「あっ、あの子?」
「狩人よ。私達の組織と対立する存在」
「狩人?」
激しく動揺しまくっている俺は天笠さんの言葉を反芻することしかできない。
「もう、本当ににわからないの? それとも本当のおバカなのかしら? まあ、どっちでもいいけどね。特別にもう一回聞いてあげる。あなたは、先日の放課後、ここの屋上で狩人に会わなかったかしら?」
「屋上って……まっ、まさか、ゆきねの事か」
「ゆきねっていうの。まあ、こっちは名前さえ知らなかったんだけどね。でも、これではっきりしたわ、あなたはあの子の仲間ってことよね。じゃあ、死んでもらうわ」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、仲間になったっていうか、勝手に巻き込まれただけなんだけど」
「ふーん。でも、この世界の秘密、知ってるんでしょ」
「秘密って?」
「平衡世界やバグの存在よ」
「っ!!」
「ほらやっぱり知ってるんじゃない。この事は私達しか知らない事象なの。一般人に知られたとあっては、その存在を消すしかないのよね」
ものすごく冷徹な声なのだが、まさか、ここで俺はあっさり殺されちまうのか? 若干冷静になりかけたので、落ち着いて考えみるが、ついさっきまでおっとりした口調の天笠さんが、いきなり豹変した。しかし、ゆきねの事を知ってるし、何がどうなって……、まさか、ゆきねが言ってたやつらって天笠さんの事だったのか?
「きっ、君たちの目的はなんなんだ」なんとか、腹の底から声を絞り出す。
「もうすぐ死ぬんだから聞いてどうするの? まあ、いいわ。冥途の土産に教えてあげる。地獄の案内人にでも自慢するといいわ。いい? 動かないで聞きなさい。眉一つでも動かせば、あっと言う間に動かない肉塊のできあがりよ」
若干低めの声での脅し文句に怖さ倍増だ。天笠さんはゆっくりと銃を下ろすと、語りはじめた。
「あなたは、この世界をどう思う?」
「この世界って? いま、俺たちが生活をしている世界ってこと……か?」
「そうよ。この何もかも行き詰った世界。地球由来の資源を貪り、人間以外の生物の命をなんとも思わない、己が欲求のためだけに生きている人間が蔓延っている世界よ。人類の進歩も望めない閉塞しきった世界。残るのは、このまま資源が枯渇し、奪い合いを始める愚かな人間だけよね」
いやいや、そりゃ相当なネガティブ思考だぞ。
「私達天笠研究所は、この先の人類はいかにあるべきかを研究するために立ち上がったのよ。でも、研究を進めれば進めるほど、この先の人類に明るい希望はない。いくら、化石燃料を減らし、自然エネルギーを使ったって、たかが知れている。人類の欲望は飽くなきものだから、しばらくすればまた化石燃料を奪い合い、地球を傷つける。このまま地球を痛め続ければどうなると思う?」
「どうなるって……」
「最終的に地球のエネルギーはゼロになるわ。人類はいなごの大群と同じよ。資源を貪り続け最終的には空にしてしまう。唯一違うところは、他に逃げ込む場所が無いってこと。資源を食い尽くした人類に待っているのはそう、滅亡しかないのよ」
いきなりの大演説だが、この女は何を言ってるんだ? 地球のエネルギーだの滅亡だの。いきなりすぎて言っている意味が半分もわからん。