巫部凛のパラドックス(旧作)
逸る気持ちを抑えながら、慎重に開いてみると、
「放課後、音楽室にてお待ちしています 天笠 美羽」
短い文章だが、これで十分だ。ついに俺にも春が到来したってもんだ。しかも、あの天笠さんからということは、メールの延長からの恋愛なんてテンプレートに沿ったものだとしても俺の高校生活がバラ色一色に染まったも同然、トイレの個室の中で思わずガッツポーズをしちまったぜ。
と、いう訳で、なんとしても今日は巫部の呪縛から逃れなくてはならない。麗しの天笠さん、待っていてください。
「なーんか、顔がにやけてるんだけど」
目の前に仁王立ちする巫部は少し不機嫌そうに俺を見下ろした。
「いっ、いや、なんでもないぞ」
やばい、嬉しさ有り余って表情に出ていたらしい。ここで感づかれる訳にはいかないよな。
「今日も本格的な捜索よ。いいわね」
「いや今日は少し用事があるのだが……」
「どうせ大した用事でもないんでしょ。さっ、行くわよ」
「いやいや待ってくれ。ものすごく重要な事なんだ。終わったらすぐいくから、見逃してくれ!」
「そう言って逃げる気じゃないでしょうね」
「絶対に逃げないって。だから、な?」
両手を合わせて懇願してみる。俺はこれから音楽室へ行き、女子の告白を受けるなんてミッションを遂行しなくてはならないのだからな。ここは何を言っても見逃してもらわなければ。
「ふーん。よっぽど大事な用っぽいわね。わかったわ。私もそこまで鬼じゃないもの。だけどいい? 明日から毎日有無を言わず手伝うって誓いなさい。そうすれば今日は見逃してあげるわよ」
「する。なんでもする。だから、見逃してくれ!」
「そう、そこまで懇願するとわね。いいわ。今日は見逃してあげる」
そう言って巫部は踵を返すが、これって無事逃れられたって事だよな。必死にお願いしすぎて、あいつが出した条件はあまりきこえながったけどな。
とりあえず見逃してもらったっぽいので、音楽室へ向かいダッシュした。確か特別教室棟の三階だったはずだよな。
階段を二段抜かしで駆け上がり、特別教室棟三階へ到着した。廊下には人影がなく、そこには無音が支配する静寂な世界が広がっていた。
ここまでダッシュしてきた体を落ち着かせようと、三度深呼吸してから、俺は人生で初となる告白を受けようと歩を進めた。
音楽室の扉の前、かなりいい感じでビートを刻む心臓に落ち着けと指令を出してから、ドアノブに手を掛け、一気に開いた。
音楽室特有の匂いが鼻をつき、顔を上げた俺の目に飛び込んできたものは、一人の女子生徒だった。両手を胸の前で組み、静かに窓の外を見ていた。
「……」
言葉を失う俺。茜色に染まりつつある背景と窓際に佇む女子生徒。どこぞやの絵画にあるような、なんて絵になる構図だ。
女子生徒は俺が入ってきたのに気付いたのだろう。ゆっくりと振り返ると、やさしく微笑んだ。
「……」
さらに言葉を失う俺。肩まである髪が風に舞い、少し短めのスカートを穿いた女子生徒は、やっぱり、というか、かなりの美少女だぞ。
あっけにとられている俺を見つめながら、少女は口をゆっくり開いた。
「あっ、あのう」
「はっはい」
「まっ、まずは、来てくれてありがとうございます」
若干どもりながら丁寧に頭を下げる天笠さん。
「放課後、音楽室にてお待ちしています 天笠 美羽」
短い文章だが、これで十分だ。ついに俺にも春が到来したってもんだ。しかも、あの天笠さんからということは、メールの延長からの恋愛なんてテンプレートに沿ったものだとしても俺の高校生活がバラ色一色に染まったも同然、トイレの個室の中で思わずガッツポーズをしちまったぜ。
と、いう訳で、なんとしても今日は巫部の呪縛から逃れなくてはならない。麗しの天笠さん、待っていてください。
「なーんか、顔がにやけてるんだけど」
目の前に仁王立ちする巫部は少し不機嫌そうに俺を見下ろした。
「いっ、いや、なんでもないぞ」
やばい、嬉しさ有り余って表情に出ていたらしい。ここで感づかれる訳にはいかないよな。
「今日も本格的な捜索よ。いいわね」
「いや今日は少し用事があるのだが……」
「どうせ大した用事でもないんでしょ。さっ、行くわよ」
「いやいや待ってくれ。ものすごく重要な事なんだ。終わったらすぐいくから、見逃してくれ!」
「そう言って逃げる気じゃないでしょうね」
「絶対に逃げないって。だから、な?」
両手を合わせて懇願してみる。俺はこれから音楽室へ行き、女子の告白を受けるなんてミッションを遂行しなくてはならないのだからな。ここは何を言っても見逃してもらわなければ。
「ふーん。よっぽど大事な用っぽいわね。わかったわ。私もそこまで鬼じゃないもの。だけどいい? 明日から毎日有無を言わず手伝うって誓いなさい。そうすれば今日は見逃してあげるわよ」
「する。なんでもする。だから、見逃してくれ!」
「そう、そこまで懇願するとわね。いいわ。今日は見逃してあげる」
そう言って巫部は踵を返すが、これって無事逃れられたって事だよな。必死にお願いしすぎて、あいつが出した条件はあまりきこえながったけどな。
とりあえず見逃してもらったっぽいので、音楽室へ向かいダッシュした。確か特別教室棟の三階だったはずだよな。
階段を二段抜かしで駆け上がり、特別教室棟三階へ到着した。廊下には人影がなく、そこには無音が支配する静寂な世界が広がっていた。
ここまでダッシュしてきた体を落ち着かせようと、三度深呼吸してから、俺は人生で初となる告白を受けようと歩を進めた。
音楽室の扉の前、かなりいい感じでビートを刻む心臓に落ち着けと指令を出してから、ドアノブに手を掛け、一気に開いた。
音楽室特有の匂いが鼻をつき、顔を上げた俺の目に飛び込んできたものは、一人の女子生徒だった。両手を胸の前で組み、静かに窓の外を見ていた。
「……」
言葉を失う俺。茜色に染まりつつある背景と窓際に佇む女子生徒。どこぞやの絵画にあるような、なんて絵になる構図だ。
女子生徒は俺が入ってきたのに気付いたのだろう。ゆっくりと振り返ると、やさしく微笑んだ。
「……」
さらに言葉を失う俺。肩まである髪が風に舞い、少し短めのスカートを穿いた女子生徒は、やっぱり、というか、かなりの美少女だぞ。
あっけにとられている俺を見つめながら、少女は口をゆっくり開いた。
「あっ、あのう」
「はっはい」
「まっ、まずは、来てくれてありがとうございます」
若干どもりながら丁寧に頭を下げる天笠さん。