巫部凛のパラドックス(旧作)
「いい、つまり明日も違う可能性があるってこと。この状況は危険だわ」
「危険って、具体的にはどうなるんだ? このままずっと訳のわからん世界を旅するってことなのか」
「このまま世界が膨張し続けるとやがて容量に達するのよ。あとバグの発生も懸念しなくちゃいけない」
「容量に達するとどうなるんだ?」
「容量に達した世界は全てリセットされる」
「って事は、前にさくらが言っていた事になるってことなのか?」
「そうなるわね。世界のリセット、すなわち生命と呼称されるものは全て無に帰すってこと。まあ、世界容量に達しなくても、バグが発生して世界を覆っても終わりなんだけどね」
「どうしたらいいんだよ」
 前回は特に気にも留めていなかったが、なんとなくこの状況を説明されると、背中に冷たいものが走る。やけにリアリティーのある話になっちまったじゃないか。
「やがて容量に達する日が来る。その時までに本来の世界にいる彼女が作り出す平衡世界の増加を阻止する事が必要なの」
「平衡世界の増加を防ぐって、一体どうやって?」
「それがわかれば苦労はしないわ。だからあんたが必要なの。あんたはもしかしたら鍵かもしれないんだから、まあ、あんたには心当たりはないだろうけど、この世界はあんた次第。あんたがニームの作り出す世界の増加を抑えなければこの世が終わるのよ」
「でも、その巫部って、この世界の巫部じゃないよな。本来の世界って……」
「大人しくなっていたり、生徒会長になっていない、あなたを生徒会長に推薦した世界の彼女が本来の姿よ。その世界にいる彼女がこの世界を作り出しているってわけ」
「どうやったらその世界に戻れるんだ?」
「それもわからないわ。もしかしたら、ずっとこのままかもしれないしね。そうなったら……チェックメイト」
 俯きがちに呟いていたゆきねは俺を見つめると、はっきりと意思の篭ったような瞳で俺に告げた。
「わかったが、巫部がへんてこな世界を作り出す原因がわからないと俺にはどうしようもできないぞ」
「できなければ、この世が終わるのよ」
 冷たい視線で俺を見つめるが、そんな抽象的な事を言われてもねえ。
「本来の世界に戻るまで待つしかないわよ。今できるのはそれだけ」
 ゆきねは踵を返し階段を下りようと踵を返すが、
「そうそう、彼女の事なんだけど、やっぱりあのやり方しかないみたい。だからあんたは、明日の放課後に彼女を呼び出してちょうだい」
 背中越しに言葉を紡ぐが、その表情は伺いしれない。
「呼び出すって、また昨日みたいなことになるのか? できれば、違う方法で解決したんだが」
 まあ、目の前での殺戮なんてごめんだしな。あの光景を思いだすだけで胃の奥から込み上げるものがあるってもんだ。
「そうねえ……」
 振り向いたゆきねは何やら考え込んで、
「ちょっと考えておくわ。詳しくは明日話すから」
 再度踵を返し階段を下りていった。
「一体、俺にどうしろって言うんだよ」
 誰に聞かせることなく、呟いた言葉は、少しカビ臭い階段に消えていった。
「よお、麻衣。お待たせ」
「もっ、もう、蘭ったら、また御巫さんんと内緒話? いつのまにそんなに仲良くなったのよ?」
 廊下で少し怯えるように小さく丸まっていた麻衣に極めて明るく挨振る舞い、少し頬を膨らませながら睨む麻衣をなだめながら、夕陽の中を駅へと向かった。
 しかし、この状況を麻衣に説明した方がいいのかな? 俺とゆきね以外で唯一まともなのは麻衣だけだからな。
 腕を組み、右手を口に宛がい考え込んでいると、
「キャッ」
 後方から派手な音とともに悲鳴が聞こえてきた。振り向くと、麻衣が大の字で道路にダイブしているじゃないか。
「おいおい、大丈夫かよ」
「えへへ、転んじゃった」
 顔面に砂を付け、頭をかく麻衣。
 やっぱ、こんなドジっ子には教えない方がいいかもな。世界の終わりだとか、その原因が巫部だなんて事を。ここは、俺とゆきねがなんとかしなければならないって事なのか?
 さて、その翌日、一変しちまった世界に若干の混乱を伴いながら麻衣と登校する。今日もまた、あの『生徒会長 巫部凜』を拝まなくてはならないのか。辟易としながら、校門前へと歩を進めるが、のんびり歩いていたせいで予冷が鳴ってしまった。
「ヤバイ、麻衣、急ぐぞ」
 麻衣への向き直り駆け出した矢先だった。
「キャア」
校門をくぐった瞬間何かに派手にぶつかった。いてて、なんだよ、もう。
そう言って視線を前方に移すと、そこには尻餅をついた巫部がいるじゃないか。
「……」
 咄嗟に声がでない。混乱度が増すので、なるべくなら出会いたくない生徒会長様がそこにいた。
「ちょっと、あなた何やってるのよ」
「ああ、ごめん。少し急いでたもんだから」
 巫部は起き上がりスカートに付いた砂を払いながら、
「もう、気をつけてよね。そもそも、もう少し時間に余裕を持って登校すればこんなことにはならないんじゃない」
「そっ、それはそうだな。すまない。今後気を付けるよ」
「そうしてもらえる。……あら?」
 そこまで言って巫部は俺に気が付いたらしい。
「あなたは、昨日の」
 ここは何て言えばいいのだろう。すでにおなじみになったあだ名を答えるのか、本名を答えるのか。さあ、どっちだ。そんな思案をしていると。
「あの後生徒会室で待っていたのだけれど、陳情はいいのかしら?」
 どうやら生徒会長様に直訴にきた生徒と思われているらしい。
「ああ、あれはいいんだ。迷惑かけてすまなかったな」
「そう……」
 巫部なぜだか俺を見つめている。
「あっ、あの……あなたとは昔何処かで逢ったような気がすんだけど、気のせいかしら?」
 突然の言葉だったが、久しぶりの巫部とのまっとうな会話に眩暈がするぜ。ああ、会っていたさ、別の世界ではな。そっちの世界でお前は俺たちをとんでもない事に巻き込みやがったんだ。だが、この世界の巫部は違う。俺たちが良く知っている巫部ではないのだ。
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