巫部凛のパラドックス(旧作)
「それじゃ、シュレディンガーの猫はどう?」
こんどは猫の話か、猫がどうしたって。
「かいつまんで説明するわね。例えば、蓋のある容器に生きた猫と、放射性物質のラジウムを一定量、ガイガーカウンター、アルファ粒子検知器付きの青酸ガス発生装置を入れたとする。もし箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すとこれを検出器が感知して青酸ガスの発生装置が作動し、猫は死ぬわよね。しかし、アルファ粒子が出なければ検出器は作動しないので猫は生き残る」
訳がわからんし、それは動物虐待って言うんじゃないのか?
「確率の話よ。ここで、アルファ粒子が出る確率が五十パーセントだとしたら、一時間後に猫はどうなってると思う?」
「そりゃあ、毒ガスが発生して死んでるんじゃないのか」
「馬鹿ねえ、そんなの蓋を開けて見るまではわからないじゃないの」
「おいおい、揚げ足を取るなよ、なんだそりゃ、とんちか?」
「違うわよ、確率の問題なのよ。つまり、蓋を開けるまで、猫が生きているという状態と死んでいるという状態が一対一で重なっていてその二つの世界が平行に存在しているという訳」
「そりゃそうだろうな。蓋を開ければ解決するんだもんな」
もっともだと思うだろ? 確かに猫の生死はわからない。だが、蓋を開ければたちまち解決じゃないのか。俺がよほど小難しい顔をしていたのだろう、巫部は研究成果を学会で発表している学者のように、
「問題はそこよ。通常、蓋を開ければ猫の生死がわかり、世界はどちらか一方に収束する。でも、収束しなかったらどうなると思う? 猫が生きている世界と死んでいる世界が同時に存在してしまったとしたら? 二つの世界があることになるわよね」
まあ、そうだろうな。確率の話っぽいし、二パターンの世界があってもおかしくないだろう。ただ、俺たちの存在している時間軸は一つだ。いくら二パターンの世界があろうが、確実に存在できるのは一つの世界のみな訳で、猫が生きている世界と死んでいる世界のうち、観測された世界が正となり、もう一つの仮定世界は棄却される。即ちそれは俺たちが呼吸をするのと同じくらい、至極当然のことだろう。だが、巫部は、
「私はそのもう一つの世界を探したいのよ。それはきっとこの世界のどこかに存在しているわ。探し出し、その世界へ行くことが私の夢なの」
恥ずかしさをおくびにもださず堂々と言い切りやがった。ここまではっきり言われると逆に清々しささえ感じちまうだろうが。
「待て待て待て、なんでそこまでもう一つの世界に拘るんだよ。って言うか何でもう一つの世界の存在をそんなに信じられるんだ? 俺なんてまったく持ってそんな存在信じてないぞ」
「そんなの楽しそうだからに決まっているじゃない。考えてもみなさい。こんな退屈しかない世界じゃなくて、何もかも心が躍るくらい楽しいようなもう一つの世界があるのよ。それはきっと素晴らしいところだわ。まさしく桃源郷ね。私はそんな世界をこの目で見てみたいのよ」
両手を腰に宛がい、胸を張りながら話終える巫部だが、なぜそこまで荒唐無稽な事を信じてるてんだ? 俺には到底理解できないレベルに達しているような気もするのだが。
「これで、もう一つの世界について理解できたでしょ。さあ、明日から探しまくるからそのつもりでいることね」
堂々と言い切った巫部は颯爽と踵を返し、それを無言で見送ることしかできない俺と麻衣。
数秒後に麻衣が口を開いたのだが、俺にはその時間が数十分にも感じられた。人間、突拍子もない話を聞いた後は脳が無意識のうちに脳が記憶を削除にかかるらしい。
「ねえ、もう一つの世界を探すなんて楽しそうね」
「おいおい、麻衣まであんな奴の言葉を信じているってのか? 俺はまったくもって信じられないぞ。なんだよ、もう一つの世界って」
「でも、私たちがいるこの世界じゃなくて、もう一つの世界なんてロマンチックよねえ。一体どんな所かしら? 私はいるのかなあ」
若干うっとりぎみに語っているのだが、肯定派がここにもいるなんて、二対一でその訳のわからん世界とやらを探すはめになっちまったっていうのか? 俺には到底理解できないね。っていうかしたくなないのだが・・・。
こんどは猫の話か、猫がどうしたって。
「かいつまんで説明するわね。例えば、蓋のある容器に生きた猫と、放射性物質のラジウムを一定量、ガイガーカウンター、アルファ粒子検知器付きの青酸ガス発生装置を入れたとする。もし箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すとこれを検出器が感知して青酸ガスの発生装置が作動し、猫は死ぬわよね。しかし、アルファ粒子が出なければ検出器は作動しないので猫は生き残る」
訳がわからんし、それは動物虐待って言うんじゃないのか?
「確率の話よ。ここで、アルファ粒子が出る確率が五十パーセントだとしたら、一時間後に猫はどうなってると思う?」
「そりゃあ、毒ガスが発生して死んでるんじゃないのか」
「馬鹿ねえ、そんなの蓋を開けて見るまではわからないじゃないの」
「おいおい、揚げ足を取るなよ、なんだそりゃ、とんちか?」
「違うわよ、確率の問題なのよ。つまり、蓋を開けるまで、猫が生きているという状態と死んでいるという状態が一対一で重なっていてその二つの世界が平行に存在しているという訳」
「そりゃそうだろうな。蓋を開ければ解決するんだもんな」
もっともだと思うだろ? 確かに猫の生死はわからない。だが、蓋を開ければたちまち解決じゃないのか。俺がよほど小難しい顔をしていたのだろう、巫部は研究成果を学会で発表している学者のように、
「問題はそこよ。通常、蓋を開ければ猫の生死がわかり、世界はどちらか一方に収束する。でも、収束しなかったらどうなると思う? 猫が生きている世界と死んでいる世界が同時に存在してしまったとしたら? 二つの世界があることになるわよね」
まあ、そうだろうな。確率の話っぽいし、二パターンの世界があってもおかしくないだろう。ただ、俺たちの存在している時間軸は一つだ。いくら二パターンの世界があろうが、確実に存在できるのは一つの世界のみな訳で、猫が生きている世界と死んでいる世界のうち、観測された世界が正となり、もう一つの仮定世界は棄却される。即ちそれは俺たちが呼吸をするのと同じくらい、至極当然のことだろう。だが、巫部は、
「私はそのもう一つの世界を探したいのよ。それはきっとこの世界のどこかに存在しているわ。探し出し、その世界へ行くことが私の夢なの」
恥ずかしさをおくびにもださず堂々と言い切りやがった。ここまではっきり言われると逆に清々しささえ感じちまうだろうが。
「待て待て待て、なんでそこまでもう一つの世界に拘るんだよ。って言うか何でもう一つの世界の存在をそんなに信じられるんだ? 俺なんてまったく持ってそんな存在信じてないぞ」
「そんなの楽しそうだからに決まっているじゃない。考えてもみなさい。こんな退屈しかない世界じゃなくて、何もかも心が躍るくらい楽しいようなもう一つの世界があるのよ。それはきっと素晴らしいところだわ。まさしく桃源郷ね。私はそんな世界をこの目で見てみたいのよ」
両手を腰に宛がい、胸を張りながら話終える巫部だが、なぜそこまで荒唐無稽な事を信じてるてんだ? 俺には到底理解できないレベルに達しているような気もするのだが。
「これで、もう一つの世界について理解できたでしょ。さあ、明日から探しまくるからそのつもりでいることね」
堂々と言い切った巫部は颯爽と踵を返し、それを無言で見送ることしかできない俺と麻衣。
数秒後に麻衣が口を開いたのだが、俺にはその時間が数十分にも感じられた。人間、突拍子もない話を聞いた後は脳が無意識のうちに脳が記憶を削除にかかるらしい。
「ねえ、もう一つの世界を探すなんて楽しそうね」
「おいおい、麻衣まであんな奴の言葉を信じているってのか? 俺はまったくもって信じられないぞ。なんだよ、もう一つの世界って」
「でも、私たちがいるこの世界じゃなくて、もう一つの世界なんてロマンチックよねえ。一体どんな所かしら? 私はいるのかなあ」
若干うっとりぎみに語っているのだが、肯定派がここにもいるなんて、二対一でその訳のわからん世界とやらを探すはめになっちまったっていうのか? 俺には到底理解できないね。っていうかしたくなないのだが・・・。