巫部凛のパラドックス(旧作)
さらに翌日の放課後、今日から捜索を開始すると朝から散々言われていたので、耳にタコどころか、ダイオウイカができてしまっている。が、そんなものに付き合ってられるかってんだ。ここは一大決心のもとホームルーム終了と同時に廊下へ向かいダッシュ! 昨日は見事にやられたが、今日は俺の方が紙一重の差で早かった! 後方では、巫部が何やら叫んでいるが、そんなもん知るかってんだ。
さて、とは言ったものの、家に帰っても特にやることがないので、校舎内を意味もなく散策してみようか。さすがに上級生の廊下にいくのは躊躇われるので、もっぱら教室棟と渡り廊下で繋がった特別教室棟だけだが。
一階、二階を一通り周り、三階へと歩を進めた。階段を登るもこれといって何もない。そりゃそうだよな。いくら高校といえどもいきなり何か面白そうなイベント。そう、食パンを加えた美少女が走って来て、あの角で出会いがしらにぶつかり、「どこ見てるのよ!」的な言葉から始まる淡いラブストーリーなノリだ。
「…………」
やばい。冷静に考えるとすげー恥ずかしい上にとてつもなく寒いじゃねえか。そんなラッキースケベ的なイベントはリアルではあり得ないってーの。
そんな、いっそうのこと二次元にダイブしそうな思考をしてみるが、当然のように特に何もないまま、三階の突き当たりまで来てしまった。
「しょうがない。戻るか」
端まで来てしまったのだから、後は階段を下りるしかない。下りの階段に一歩踏み出そうとした瞬間。俺は気づいてしまった。
「あれ……屋上があるのか?」
下りの階段の横には上りの階段。この階が最上階ってことは、残すは屋上のみってことになる。このまま帰ってもすることがなく、巫部に捕獲される可能性もあるので、乗りかかった船だぜ、と、俺は上りの階段に足を踏み出したのだった。
今さらながらに思うが、この一歩こそが日常と非日常の分水嶺だとは思いもよらなかった。いやいや巫部にとっ捕まった時点で日常とは程遠いのだが、そんな事すら生ぬるいと思わせる出来事に巻き込まれていってしまうのか? 退屈しのぎに屋上に行くだけなんだ。この時の俺を責められないよな。
ギギギ--と重い扉を開くと眩い光に包まれた。今まで校舎内にいたものだから、一瞬目が眩んでしまうが、そんなものは直ぐに収まった。
茜色に染まろうかという空と少しの羊雲。さらにフェンスの群れ。その奥には田植えを待つ田園風景。いたって普通、どこにである放課後の屋上だ。扉を出てみると心地よい風が頬を掠め、校庭からは運動部の掛け声が聞こえていた。
「なかなかいい場所じゃないか」
昼寝にはもってこいの場所だな。ここならば巫部の呪縛から逃れられるかもしれない。とりあえず散策してみるかと一歩踏み出したときだった。
「……?」
一瞬だが、何かが視界の隅に飛び込んだ。二度見するように視線を戻すと、夕日に照らされた人影らしきものがフェンスに背を預け、体育座りの格好で俯いていた。ここは学校の屋上だし生徒がいても不思議ではないのだが、良く見てみるとその人影はボロボロのマントを羽織っているじゃないか。
誰もいない屋上、いきなり現れた怪しい人影、ホラー要素満載でいつもの俺じゃ即行で逃げ出したくなるのだが、時の気まぐれか、その人影に興味を抱き一歩踏み出した。
とは言ってもいきなり近ずきすぎるのも何なので、十分に距離をとって覗き込んでみると、どうやらその人影は少女らしい。しかも同級生くらいだ。マントを羽織っているので制服のリボンはおろか制服そのものも見えないが、確かに少女が俯き加減に寝ている光景だった。
こんな所で一人マントを羽織っているってだけでなんだか穏やかじゃないじゃない気もするが、こんなところで眠り呆けているなんて、無防備もいいところだ。しかも、春になったとはいえ、夜は未だ冷えるからな。風邪をひいちまうんじゃないのか? もうすぐ下校時間だし、ここは起こしてやった方がいいのかねえ。
そんな軽い出来心的なノリだった。決して邪な考えがあったわけじゃないぞ、俺は少女の目の前に立つと、少し身を乗り出した。
「あっ、あのう」
「…………」
若干ビビリながら恐る恐る声を掛けてみたのだが、こんな返事しか返ってこない。まあ、返事が返ってこないと言うよりは、完璧にシカトされているようだなこりゃ。
とにかく、ここで引き下がっては男が廃るってもんなので、再度勇気を振り絞ろうとしていると、
「……ぅん」
何とも艶やかな声が上がった。一瞬ドキっとさせられたが、その少女の顔を除き込むと、どうやら寝息をたてていたらしい。よかった。いきなりあんな色っぽい声をだされても俺が困るってもんだ。
そんな若干の感嘆を抱いた瞬間だった。
いきなり少女が顔を上げ、覗き込んでいた俺の目の前に少女の顔がある。
と、思った俺は次の瞬間宙を舞っていた。何だ? 今度は何が起こった? 冷静に判断しようとするが、既に上下の感覚がなく、上を向いているのか、下を向いているのか考えがまとまる前に激しくどこかに叩きつけられた。着地してから少し滑っていったということは、ものすごい力が加えられたってことだよな。
幸い頭を打つなどの重症ではなかったので、コンクリートで擦った足を引きずりながら、痛てえなこの野郎! と起き上がると、さっきまで俺がいたところが十メートル程先に見えるじゃないか。おいおい、こんなにすっ飛ばされてよく死ななかったもんだ。普通なら死亡フラグが立つくらいにヤバかったんじゃないのか?
しかし、どうして俺は人間大砲のように滑空していた? 何かがぶつかってきたとか? いやいや違うな。まさか、あの少女に突き飛ばされたとか? まさかな。と言って先程の少女を見つけようとするが、さっきまで居た場所は既にもぬけの殻だった。
「……あれ? おかしいな」
頭をかいたその時だ、上空に何かの気配を感じ、咄嗟に見上げた俺の視界に飛び込んできたのは――。
さて、とは言ったものの、家に帰っても特にやることがないので、校舎内を意味もなく散策してみようか。さすがに上級生の廊下にいくのは躊躇われるので、もっぱら教室棟と渡り廊下で繋がった特別教室棟だけだが。
一階、二階を一通り周り、三階へと歩を進めた。階段を登るもこれといって何もない。そりゃそうだよな。いくら高校といえどもいきなり何か面白そうなイベント。そう、食パンを加えた美少女が走って来て、あの角で出会いがしらにぶつかり、「どこ見てるのよ!」的な言葉から始まる淡いラブストーリーなノリだ。
「…………」
やばい。冷静に考えるとすげー恥ずかしい上にとてつもなく寒いじゃねえか。そんなラッキースケベ的なイベントはリアルではあり得ないってーの。
そんな、いっそうのこと二次元にダイブしそうな思考をしてみるが、当然のように特に何もないまま、三階の突き当たりまで来てしまった。
「しょうがない。戻るか」
端まで来てしまったのだから、後は階段を下りるしかない。下りの階段に一歩踏み出そうとした瞬間。俺は気づいてしまった。
「あれ……屋上があるのか?」
下りの階段の横には上りの階段。この階が最上階ってことは、残すは屋上のみってことになる。このまま帰ってもすることがなく、巫部に捕獲される可能性もあるので、乗りかかった船だぜ、と、俺は上りの階段に足を踏み出したのだった。
今さらながらに思うが、この一歩こそが日常と非日常の分水嶺だとは思いもよらなかった。いやいや巫部にとっ捕まった時点で日常とは程遠いのだが、そんな事すら生ぬるいと思わせる出来事に巻き込まれていってしまうのか? 退屈しのぎに屋上に行くだけなんだ。この時の俺を責められないよな。
ギギギ--と重い扉を開くと眩い光に包まれた。今まで校舎内にいたものだから、一瞬目が眩んでしまうが、そんなものは直ぐに収まった。
茜色に染まろうかという空と少しの羊雲。さらにフェンスの群れ。その奥には田植えを待つ田園風景。いたって普通、どこにである放課後の屋上だ。扉を出てみると心地よい風が頬を掠め、校庭からは運動部の掛け声が聞こえていた。
「なかなかいい場所じゃないか」
昼寝にはもってこいの場所だな。ここならば巫部の呪縛から逃れられるかもしれない。とりあえず散策してみるかと一歩踏み出したときだった。
「……?」
一瞬だが、何かが視界の隅に飛び込んだ。二度見するように視線を戻すと、夕日に照らされた人影らしきものがフェンスに背を預け、体育座りの格好で俯いていた。ここは学校の屋上だし生徒がいても不思議ではないのだが、良く見てみるとその人影はボロボロのマントを羽織っているじゃないか。
誰もいない屋上、いきなり現れた怪しい人影、ホラー要素満載でいつもの俺じゃ即行で逃げ出したくなるのだが、時の気まぐれか、その人影に興味を抱き一歩踏み出した。
とは言ってもいきなり近ずきすぎるのも何なので、十分に距離をとって覗き込んでみると、どうやらその人影は少女らしい。しかも同級生くらいだ。マントを羽織っているので制服のリボンはおろか制服そのものも見えないが、確かに少女が俯き加減に寝ている光景だった。
こんな所で一人マントを羽織っているってだけでなんだか穏やかじゃないじゃない気もするが、こんなところで眠り呆けているなんて、無防備もいいところだ。しかも、春になったとはいえ、夜は未だ冷えるからな。風邪をひいちまうんじゃないのか? もうすぐ下校時間だし、ここは起こしてやった方がいいのかねえ。
そんな軽い出来心的なノリだった。決して邪な考えがあったわけじゃないぞ、俺は少女の目の前に立つと、少し身を乗り出した。
「あっ、あのう」
「…………」
若干ビビリながら恐る恐る声を掛けてみたのだが、こんな返事しか返ってこない。まあ、返事が返ってこないと言うよりは、完璧にシカトされているようだなこりゃ。
とにかく、ここで引き下がっては男が廃るってもんなので、再度勇気を振り絞ろうとしていると、
「……ぅん」
何とも艶やかな声が上がった。一瞬ドキっとさせられたが、その少女の顔を除き込むと、どうやら寝息をたてていたらしい。よかった。いきなりあんな色っぽい声をだされても俺が困るってもんだ。
そんな若干の感嘆を抱いた瞬間だった。
いきなり少女が顔を上げ、覗き込んでいた俺の目の前に少女の顔がある。
と、思った俺は次の瞬間宙を舞っていた。何だ? 今度は何が起こった? 冷静に判断しようとするが、既に上下の感覚がなく、上を向いているのか、下を向いているのか考えがまとまる前に激しくどこかに叩きつけられた。着地してから少し滑っていったということは、ものすごい力が加えられたってことだよな。
幸い頭を打つなどの重症ではなかったので、コンクリートで擦った足を引きずりながら、痛てえなこの野郎! と起き上がると、さっきまで俺がいたところが十メートル程先に見えるじゃないか。おいおい、こんなにすっ飛ばされてよく死ななかったもんだ。普通なら死亡フラグが立つくらいにヤバかったんじゃないのか?
しかし、どうして俺は人間大砲のように滑空していた? 何かがぶつかってきたとか? いやいや違うな。まさか、あの少女に突き飛ばされたとか? まさかな。と言って先程の少女を見つけようとするが、さっきまで居た場所は既にもぬけの殻だった。
「……あれ? おかしいな」
頭をかいたその時だ、上空に何かの気配を感じ、咄嗟に見上げた俺の視界に飛び込んできたのは――。