恋は理屈じゃない

「私ができるのはお姉ちゃんの身体の負担を軽くすることだけで……。それなのにこんな風に体調を崩すなんて、情けないです」

お姉ちゃんの妊娠が発覚してから一ケ月半が経ち、つわりもだいぶ落ち着いてきた。でも問題はなにひとつ解決していない。

お腹の子の父親である笠原さんの行方を探す方法も見つけられず、だた、いたずらに時が過ぎていくことが歯痒くてならなかった。

「相変わらず、鞠花ちゃんはお姉さん思いで優しいな」

「そんなことないです。副社長にこんなことを聞いてもらって、すみませんでした」

柔らかな笑みを浮かべる速水副社長に頭を下げる。

「自分ひとりで抱え込むな。辛い時は人に甘えたっていいんだぞ」

少し不調だった私の身体と心に、速水副社長の優しい言葉が染み入った。

私が甘えたい相手は、速水副社長しかいない……。

「じゃあ、手を握ってください」

大胆なお願いが、口からふいにこぼれ落ちる。

やだ、私ったら、なに言ってんだろ……。

「あ、い、今のは冗談です。冗談……」

恥ずかしいことをお願いしてしまい、慌てて訂正をする。しかし速水副社長は笑みを浮かべたまま、私の右手に大きな手をスッと重ねた。

「冷たい手だな」

「仕事中はいつもこんな感じです」

「そうなのか。これじゃあ辛いだろ?」

指の間に速水副社長の長い指がすべり込み、ふたつの手が隙間なく重なり合う。

< 113 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop