恋は理屈じゃない
「鞠花ちゃん、なにに悩んでいる?」
「えっ?」
速水副社長の指摘通り、私は悩みを抱えている。そのことについて考えていたせいで、昨夜はなかなか寝つけなかった。
けれど、悩んでいることを態度に表したり、口にしたつもりはない。
それなのに、どうして……。
驚きながら、隣の速水副社長を見つめた。
「悩み事があるって、顔に書いてあるぞ」
私の瞳を見つめ返す速水副社長の真剣な眼差しを見ただけで、彼が冗談を言っているわけではないと、すぐにわかった。
でも悩みを速水副社長に打ち明けたら、きっと彼はまた傷ついてしまう……。
だから私は、わざと明るく振舞う。
「また冗談言って、私をからかうつもりですね」
「からかってなんかいない。俺に悩み事を打ち明けて楽になれ」
速水副社長の思いやりにあふれた言葉を聞いた瞬間、私の中で張りつめていたものがプツリと切れた。
「……お姉ちゃん、妊娠したことをまだ両親に内緒にしているんです。安定期に入ったら打ち明けるつもりらしいですけど」
「そうか」
悩み事を速水副社長に内緒にしていたのは、お姉ちゃんに裏切られた辛い過去を思い出させたくなかったから。
速水副社長に申し訳なく思いつつも、もうひとりで悩みを抱え込むことに限界を感じていた私はさらに話を続けた。