スノー アンド アプリコット

俺はカウンターに指を叩きつけ、杏奈に念を押した。

「いいか、ここはお前の奢りだからな。」
「はー?」
「お前、俺がこれだけ被害を被っててなんとも思わねえのかよ?」
「褒美が欲しいわけ? 下僕の片隅にも置けないわね。」
「誰が下僕だ、ふざけんな!」

まあまあまあまあ、と宥めながら、誠子ママが目の前にビールを置いてくれた。

「で、何があったの?」
「何って、いつもと大して変わらないわよ。」
「冗談じゃねえよ。こんなの恒例化すんなよな。」
「ユキくんは結局杏奈ちゃんに甘いからねえ…」

一部始終を話し終わる頃に、キララがシミの薄くなったシャツを持ってきた。

「これが限界だわ…」
「いーわよいーわよ、シャツなんて山ほど買えるんだから、このおぼっちゃまは。」
「だからお前が言うことじゃねえだろって…」

俺はひとまず濡れたシャツを羽織った。

「それにしても、いちいちアンナは過激なのよね。もう少し穏便に事を運べないわけ?」

キッチンで話を聞いていたらしく、キララが呆れたように言った。
まったくだ、と俺は頷く。

「過激なことをしたのはあっちで、あたしは普通にしてたわよ。」
「嘘つけ、お前怒鳴りつけてたじゃねえか。」
「あんなことされりゃ、怒鳴りたくもなるわよ!」
「まあでもねえ、杏奈ちゃんは杏奈ちゃんだから…」

誠子ママがフォローだかなんだかわからないことを言う。

「なんだっけ? ユキくん、前に話してたじゃない? 高校生の時、杏奈ちゃん、イジメられそうになった時の…」
「あー、あの話、アタシ好き!」
「好きなのかよ!」
「なんの話よ?」

杏奈が眉をひそめて俺を見た。大体、俺がここで誠子ママとキララと話している時は、杏奈は潰れて前後不覚になっているから、記憶にないだろう。

「ほら、あっただろ、お前が高校から編入してきてすぐの頃、やっかまれてさ…」
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