スノー アンド アプリコット

◆◆◆

「いらっしゃーい…ってアラ、昨日ぶり~」

アパートにほど近いバー、"レファム"のレトロな木のドアを押し開けると、カウンターの内側で誠子ママがにこやかに俺たちを迎え入れてくれた。

「えーっ、珍しい、初めから二人揃ってる! どうしたのユキくん、嬉しい~!」

もう一人、源氏名キララが更に奥の簡易キッチンから顔をのぞかせて、俺を見つけて目を輝かせた。
…バーはバーでも、オカマバーだ。
路地裏にひっそりと構える一見いい雰囲気の店だが…内装も落ち着いていて、本当に普通のバーに見えるのだが…
ガタイの良い男が二人、ギラついた化粧をして立っている。
間違って初めて足を踏み入れた客は大抵、たじろぐ。

「ビールね。」
「俺も。」

カウンターに寄りながら杏奈が言い、俺も続くと、座る前に誠子ママが目ざとく俺のシャツの汚れを見つけた。

「どうしたのそれ、ユキくん!」
「名誉の負傷よね。」
「お前が言うか?!」
「えーちょっと何これ、コーヒー?!」

キララが走り寄ってきて野太い悲鳴を上げた。

「やだもー脱いで! 落ちるかしら、コーヒーはちょっと厳しいわよねえ…」
「一体何があったの? 初めて二人で来てくれたかと思えば、修羅場の後?」

俺がいつもここへ来るのは泥酔した杏奈を迎えに来る時ばかりで、ちゃんとした客として来たことは確かに今までない。来るたびに大喜びでもてなされるから、気づかなかった。
剥ぎ取られるようにキララにシャツを脱がされて、俺は半裸で座る羽目になる。他に客がいなくて助かった。

「ヤダもー、ほんと、ホレボレするほどイイ男! その筋肉って筋トレしてつけてるの?」
「いいからそれさっさ落とせよ、ゴリラ。」
「きゃーヒドーイ!」

オカマがみんなそうなのか知らないが、イケメンのSキャラというのはたまらないらしい。
だから俺はここでも遠慮なく振る舞うことにしている。キララは嬉しそうにヒドーイと言って、俺のシャツを持ってキッチンに消えた。

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