スノー アンド アプリコット
「アタシ、昔いじめられてから、その話聞いた時スカッとしたのよね~」
キララが何か遠い目をしてそんなことを言う。
「あー、そんなこと、あったわね。」
杏奈はしれっと言ってビールをうまそうに飲んでいる。
「あったわねじゃねえよ。あの生徒、あれから不登校になったんだぞ。」
「自業自得じゃないの。」
「お前、あいつが主犯だってわかってやったろ? 濡れた制服を顔に投げつけたのも、絶対わざとだろ?」
「敵に回す奴は選ばないと痛い目みるって教訓でしょ。お嬢様なんだからどうせ今頃シャンパンでも飲んでごきげんようとか言いながらセレブな生活満喫してるわよ。」
「そういう問題じゃねーだろ…お前の良心は痛んだりしねーのかよ…」
「そこが杏奈ちゃんよねえ。」
法外な入学金と学費を要する嶺山学園の初等部から通っている生徒たちは、ほとんどが裕福な家で生まれ育っている。
杏奈は、そこに突然放り込まれた異物だった。
学園ばかりが世界のすべてだった温室育ちのお坊っちゃんお嬢ちゃん達にとって、その存在はあまりにも異質過ぎたのだ。
俺はそんな杏奈に出会った中学生の頃からずっと、何度も何度も迫っては、足蹴にされてきた。
「はぁ、何言ってんの?」「ガキの相手するほど暇じゃないのよ」「いいからさっさとアイス買ってきなさいよ」「どいてよ、邪魔」「馬鹿じゃないの?」「頭沸いてんじゃないの?」「そんなこと言ってる間にいい男の一人や二人連れてきなさいよ」
…エトセトラ、エトセトラ…
実にバリエーションに富んだ台詞で、どれだけ心を抉られたことか。
「でもねえ、最近は物騒だから、本当に気をつけなさいよ。どんな恨みを買ってるか知れないんだから。」
もっともだ。俺は誠子ママのセリフに頷く。
「身辺整理もいいけど、ほどほどにね。」
「まあ、でもさっきのが男が最後よ。」
杏奈がそう言って、おかわり、とグラスを突き出した。
「は? お前身辺整理してんの? 今更?」
「うるっさいわね関係ないでしょ。」
「やだ、アンナ、ユキくんに話してないの?」
キララが顔を上げて、誠子ママと顔を見合わせた。
話すって、何を?