スノー アンド アプリコット
ユキがゆらりと大倉に近づいた。大倉はたじろいで一歩下がる。
「おめでたい奴だ。お前の善意がどれだけ杏奈への悪意になるか、全然わからないんだな。」
ああ。
あたしはようやく理解した。
ユキは怒っている。
こんな怒り方をする奴だと、あたしが知らなかったんだ。
こんな、悪魔みたいに残虐な笑みを浮かべて、静かに。
大倉の頭を簡単に片手で掴んで、大倉よりも背が高いから、背を屈めて。
「ーーてめえの幸せが杏奈の幸せだと思うんじゃねえぞ。」
低い声で、囁くように。
それだけ言うと、用は済んだとばかりに離れた。
それから、あたしの肩を引き寄せた。
「よかったなぁ俺、お前が善意の塊で、杏奈のことなんか欠片も理解してなくて。お陰で結婚はなくなって、こいつは俺のものになるんだから。」
「何…言って…」
大倉がよろよろと近づいてくる。
「残念ながら、杏奈を幸せにできるのは俺しかいないってことだ。」
ユキが笑った。
「アン。」
突然呼ばれて、あたしは反射的に顔を上げた。
その瞬間、唇を塞がれた。
「ん!」
わざと見せつけるみたいに、初めから激しく、いやらしいキスだった。
「やめろ、何を…!」
大倉が悲鳴をあげた。
ユキは構わず続けた。
深く、とろけるような。
身体を全部、預けてしまいたくなるような。
だって。
どうして。
ユキが、あたしの言いたいことを全部言うの?
「ふ、んぅ…」
「やめろーー…!!」
ユキが唇を離して、フッと笑った。
「そういうことだから。じゃあな。」
ドアを開けるとあたしの身体を部屋に押し込んで、自分も入り、鍵まで閉めた。
「杏奈ちゃん!!」
ユキがそのまま、あたしの身体をドアに押しつけた。そのドアがけたたましく叩かれて、振動が背中に伝わる。
「杏奈ちゃん、話し合おう! わかるはずだから! 杏奈ちゃん!!」
聞かなくていいと言うように、ユキはあたしの両耳を手で塞いで、再び唇を重ねてきた。