スノー アンド アプリコット
あたしは何も話していない。ユキにも、誰にも。
勝手にあたしを嶺山学園に入れた両親は、膨れ上がった借金がどうにもならなくなって、今度はあたしを長野へ連行した。
親戚の家で肩身の狭い暮らしをしながら、父親はろくに働きもせず、町に一つしかないパチンコ店に通い詰めるようになった。
無い金からアルコールだけは必ず買うようになり、酒浸りになって、母親は毎日泣きながらパートに出て、酒代を捻出するためなのか生活するためなのかわからない、雀の涙ほどの金を稼いでいた。
うんざりだった。
こんな親も、こんな町もさっさと捨てるつもりだった。あたしもバイトをして小銭をせっせと貯めていた。
馬鹿な父親が工場のためという大義名分もなく、闇金で借金を作って当然返せるわけもなく、業者に言われるまま、あたしを風俗に売ろうとして。
あたしは身一つで新幹線に飛び乗って、その足で新宿に向かい、キャバクラで働き出した。
ーーこんなどうしようもない、三文芝居にもならないような、物語を。
誰にも話すわけがない。
「……ん、もう、いい、ユキ……」
あたしは上がる息を抑えて声を絞り出した。
「も、んんっ…」
もう、いい。
背中で揺れ続けたドアはいつしかただの壁になって、遠ざかって階段を降りていく足音もかすかに聞こえた。
もう、充分だ。
「もう…んぅ……」
だから、これ以上は。
もうやめて。
なんとか大学に通えるようになって、生活が落ち着いた頃、ユキは突然現れた。
偶然のわけない。
だけどユキは何も言わなかったし、あたしも何も話すつもりはなかった。
ユキが何をどこまで知ってどういうつもりで隣に住み続けているのかなんて。
知ったからって、あたしは何も変わらない。
変わらないから。
「やめっ……」
変わらないのに。