スノー アンド アプリコット
清華はシルクのハンカチで目元を押さえて、涙声で言った。
「ごめんね。本当はちゃんと雪臣くんの気持ちを手に入れてから、杏奈ちゃんには会いたかったの。そうしたら、また杏奈ちゃんと仲良くできるかもって。でもね、私今、切羽詰まってるの。親に婚約させられそうなの。」
だから、身の上話は聞きたかないんだってば。
あたしはうんざりした。
「それは良かったじゃないの。一生食うに困らないお相手を親が見つけてくれたんでしょ? 羨ましいわよ。」
「どうしてそんなこと言うの…?」
ああ、イライラする!
お嬢様が綺麗事と贅沢を並べている。あたしにはそうとしか思えなかった。
「私はずっと雪臣くんが好きだったの。親に話したら、東条家だったら考えてもいい、この婚約はなかったことにしてもいいって言ってくれたの。」
「ああ、そう…」
あまりの荒唐無稽さにあたしはもうそう言うしかない。
「私は、もうこうして杏奈ちゃんにお願いするしかないの。お願いだから、杏奈ちゃん。私に雪臣くんを譲って。」
もはや怒鳴る気すら失っていたあたしに、清華はなおも続けた。ーーあまりに脳を上滑りしていくセリフばかり聞かされていたから、あたしは油断していた。
「杏奈ちゃんがもし雪臣くんのことを好きでも...」
こんなヘドが出そうな修羅場からは、とっとと立ち去っていればよかったのだ。
「杏奈ちゃんじゃ、東条家には、入れないでしょう?」
一瞬、頭が真っ白になった。
なんで。
そんなこと、こんな女に。
「清華!」
ユキが初めて清華に怒鳴った。
遅い。
馬鹿じゃないの?
あたしは目の前の水を、清華の顔にぶっかけた。
「嫌なら家を出るなりなんなりすればいいじゃないの。安全圏からあの人が欲しい欲しいって騒いで、叶わなかったらどうせその金持ちと結婚するんでしょ。幸せに暮らしながら、本当に好きなのはあの人だけとかって、一生悲劇のヒロインやるんでしょ。おめでたくていいわね。」
バシャッ。
今度はあたしが水を投げかけられた。
「……っ、雪臣くんがっ………あなたのことを知りたいだけだって、わかってて、抱かれた気持ちが、あなたにわかる…?!」