スノー アンド アプリコット

あたしは嗤った。
高笑いしてやりたいくらいだった。だけどまだ言うことがあった。

「他人が言われて嫌なことを言うなら、言われたくないこと言われる覚悟くらい、しておきなさいよ。またあたしと仲良くしたかったって? 綺麗事もたいがいにしなさいよ。あんたはあたしが憎くて憎くてしょうがないのよ。愛しいユキがずうぅぅっと夢中な、このあたしのことが!!」
「酷い…!!」

どっちが。
あたしは濡れた前髪を払って、身を翻した。
最後まで店員は来なかった。
二度と来るか、こんな店。

「杏奈! 待てって!」

ユキが追いかけてきた。

「アン! 聞けよ!」

腕を掴まれた。

「何よ。あのお嬢様を慰めてこなくていいの? あたしのご機嫌なんか取らなくていいわよ、"開放"してあげるから」

言い捨てて、夜道をアパートに向かって突き進む。

「悪かった、嫌な思いさせて。清華は、お前に一番近かったし俺に気があるのがわかってたから、突然いなくなったお前の情報を集めるのにちょうどよかったんだ。可哀想なことしたと思ってる、だけどあの時俺には他に方法がなかった! 謝ったし、付き合えないって断ったよ、さっきも婚約のこと聞かされたけどーー」
「どうだっていいわよ。」
「ごめん、アン、なあ!」

ユキがあたしに謝っている。
あたしもユキにごめんなんて言ったことはないけど、ユキも初めてだ。

ユキも、あたしも、あの女も。
皆勝手だ。
自分の正当性ばかり主張している。

皆そうだよ、と言った一井の声を思い出した。
皆、一人は寂しいーー……

階段を上っても、部屋の前に着いても、ユキは手を離さなかった。

「離しなさいよ。」

あたしは逆の手でスカートのポケットから鍵を取り出す。
何もかも、もう嫌だ。金切り声で言った。

「離せって言ってんのよ!!」

ユキが手を離した、と思ったら、あたしの手から鍵を奪ってそのまま開けて、あたしもろとも真っ暗な玄関に雪崩込んだ。

「ちょっと…!」

あたしが抗議の声を上げると、ユキはあたしを抱き締めた。

「やめてよ、なんなのよ!」
「ごめん、アン。離してやれない。」
「ちょっと!」
「ごめん…!」

あまりにきつく抱き締められて、背中が痛い。

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