スノー アンド アプリコット
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「そりゃあそうだろう。相手はあの杏奈ちゃんだもの。」
「………」
俺は隣の優男を睨んだ。
「……俺はなんで、てめえと飲んでるんだ?」
「だって、杏奈ちゃん今日は遅くなるって言うからさあ。まあ、君でもいいかなって。」
一井はキザったらしく茶髪を掻き上げながら、悪びれずに言った。
君でもいいってのは、何なんだよ。
「だから勝手にあいつを誘うんじゃねえよ。もう俺のなんだぞ。」
「いいじゃない、友達なんだし。僕の他に友達なんかいないはずなのに、今夜は何してるのさ、杏奈ちゃんは。」
「今日はあれよ、あの子、ヘルプでしょ、お店の。」
誠子ママが口を挟んだ。
何故か俺は一井と肩を並べて酒を飲んでいる。
やあユキくん、今君んちの近くの例のバーにいるんだけど来ない? と突然電話をかけてきたのだ。
どうして俺の番号を知っているのかと聞けば、杏奈から聞いたと言う。
何もかも気に入らない。
「お店って?」
「キャバクラよ。」
「ああー、へえー。」
一井が目を丸くして頷いた。
杏奈はいまだに、時々人がどうしても足りなくなると、昔働いていたキャバクラに顔を出す。
金のために磨き抜いた杏奈のその腕は、今でも鈍っていないらしい。なまじ頭がいいから、受験だろうが役所仕事だろうがキャバクラだろうが、本気で取り組むと結果を出してしまうから、アテにされる。
職場にバレたらまずいんじゃないのか? と俺が言っても、バレやしないわよ、と凉しい顔をしている。
「君はそういうの黙認してるの? 意外だなー」
「…行動に制限かけられるの嫌がるだろ、あいつは。」
「ああ、まあねえ。君が一生懸命訴えたってそりゃ聞かないだろうねえ。」
その通りなのだが、こいつにそれを言われる腹が立つ。
俺も杏奈にはわざわざ言わないが、ごくたまに昔いた店にヘルプ要請されれば行くこともある。学費以外の金に関しては親の恩恵がない今となっては、臨時収入はないよりあったほうがいいことは俺にもよくわかる。
「まあでも、そういうところが可愛いよね、杏奈ちゃんはさ。自由と自立にプライドかかってて、あの気の強い目がさ、たまんないよね。」
「はあ?」
「あれっ、そういうのわかんない? だから君はまだコドモなんだなー。」