スノー アンド アプリコット
いちいちムカつく物言いをする奴だ。
「てめえまだあいつのこと狙ってんじゃないだろうな?」
「やだなー、誤解だよ誤解。そりゃ君が降りれば僕はすぐ彼氏に立候補するけど、君が目を光らせてるうちは手を出さない。約束する。信用してよ。」
信用できるか。唾でも吐きかけたい気分だ。
「俺は降りない。」
「わかってるよ。でもさー。」
一井は頬杖をつき、横から俺の顔を眺めた。
「もうちょっと君も愛し方考えたほうがいいんじゃないの? もっとこう、甘やかして包んであげないと、ああいう子はさ。」
コドモには難しいだろうけどさ、などと付け足してくる。
「甘やかしてるだろ俺は、散々、何年も。」
「んー。そうじゃなくてさ。なんかさあ、安心感がないんだよ、きっと。余裕なさすぎるんじゃない? 君も。愛を押し付けてるんだよ。」
余裕なんか、あるわけない。
だけどそれをこの男の前で口にするのも癪だ。俺が黙り混んだのをいいことに、一井は滔々と続けた。
「今は君、穏やかな時間が過ごせてるとか思ってるかもしれないけど、僕には嵐の前の静けさにしか思えないな。注意しないと、またフイッといなくなるよ。野良猫みたいな子なんだから。」
「………」
「追い詰めると良くないよ。」
腹立たしくも、それは俺の不安を妙に言い当てていた。
いやだ、一井さん素敵、とキララが頬を赤らめている。
ここはいつ来ても客がいなくて二人とも暇そうだが、いいんだろうか。
「やっぱり大人よねえ。見習いなさいよ、ユキくん。」
「だよね? 杏奈ちゃんも僕にしとけばいいのにねえ。」
「うるせえ。」
誠子ママが笑った。