スノー アンド アプリコット
「もー、むくれないの。いいじゃないの、今の状況だって悪くないわよ。あの子、ユキくんのこと大事に思ってるわよ。大進歩じゃない。」
フォローみたいに言われてもな。
俺はため息をかろうじて飲み込んだ。一井の前で弱音など吐きたくない。
「しかし君も災難だね。カッコイイし女慣れしてそうだし、女一人落とすなんてわけなさそうなのに、よりによってあんな子が好きなんてさ。」
「…てめえに何がわかるっていうんだよ。」
「まあ、僕も同じかぁ。ああいう手に入りそうで入らない感じがそそるんだよねぇ…あっ、だから誤解だって、そんな顔で見ないでよ、怖い怖い。」
一井が大袈裟に肩をすくめて笑った。
…まったく、何もかも見透かしたようなことばっかり言って、面白がっていやがる。
ああ、俺はどうせコドモだよ。
心の中で呟く。
誰にモテたって、女慣れしているからって、好きな女一人、まともに手に入れられない。
一井だったらどんなふうに杏奈を愛すんだろうか?
そんな胸糞悪いことまで考えてしまう。
確かに俺は、焦っている。
俺がどんなに悪態をついたところで、一井の言うことは的を射ているのだ。
杏奈はまだ確実に俺を受け入れたわけじゃない。
何かが足りない。
わかるようで、わからない。
「まあ君の杏奈ちゃんへの異常な執着心があればさ、なるようになるとは思うけどね。」
励ましているつもりなんだろうか?
カラン、と氷を揺らしてウイスキーを飲む様は、人に余裕が無いと言うだけあって、余裕綽々に見えた。
「もう一踏ん張りよ、ユキくん!」
「そうよそうよ、最後にモノを言うのは愛よ!」
あとはもうひたすらに無責任なエールを浴びせられ、誠子ママとキララに背中を押されるようにして、俺はレファムを出た。