スノー アンド アプリコット
◆◆◆
アパートに戻ると、杏奈の部屋も俺の部屋も暗かった。
杏奈はまだ帰っていないらしい。
それなのに、ドアの前に人影があった。
怪訝に思いながら歩みを進めると、その人影は、奥の杏奈の部屋の前に立っていることがわかった。
男だ。
まだ切れていない奴がいたのか? 一井は別としても…
俺は目を凝らしてそれを見つめた。
このまま放置するわけにはいかない。
「……あ…」
足音が聞こえたのだろう、所在なげに立っていた男がこっちを向いた。
俺は思わず声を漏らした。
朧げな照明を浴びた顔には見覚えがあった。
誰だっけ?
記憶を辿る。
こんなにくたびれきった知り合いが居ただろうか?
「君は……」
向こうが口を開いた。
その弱々しい声を聞いた瞬間、雷が落ちたような衝撃を受けた。
この声。この場所、杏奈の部屋。
二、三度会ったことがある。そうだ。ここは、杏奈の部屋。
「ーー何しに来たんですか?」
間違いない。
杏奈の父親だった。