スノー アンド アプリコット
「…や、んんっ…」
小さな身体をベッドに押し倒し、あまり濃厚なキスは控えながら、ゆっくりと肌に触れていく。
たまにはうぶな女も悪くないな、と思った。
予想を裏切らず、真由子は従順そのものだった。服を脱ぐのにも協力的だ。それでもどうしても恥ずかしいのか、下着を脱ぐ前に、
「東条くん、あの…電気消してもいい?」
「ああ…」
俺は身体を起こして、照明からぶら下がっている紐を引っ張った。
俺にとっても好都合だった。暗いほうが、杏奈の身体を思い浮かべやすいから。
「は、あっ…」
優しく丹念に肌に与えられ続ける快感に、真由子は戸惑っているようにさえ感じられた。声を噛み殺しながら、次第に無意識に腰を揺らしていく。
「っ、アッ…」
固くなっていた胸の先端に触れると、真由子は耐えきれずに高い声を漏らした。
だけど時間をかけて慣らしたほうがいいだろう。痛がる女を抱く趣味はないし。
「東条くっ…」
多少の辛抱は仕方ないと覚悟したところで。
ピピピ、ピピピ…
無機質な音が真由子の声と重なった。
俺のスマホが鳴ったのだ。
「………」
俺はピタリと手を止める。真由子もハッと我に返ったようだった。
俺は電気を点けた。裸の真由子が、羞恥と困惑が混ざった顔で俺を見上げた。
出ないわけにはいかない。この着信音は一人にしか設定していないから。
鞄からスマホを取り出して通話ボタンをタッチした。
瞬間、やたら上機嫌な杏奈の声が耳元のスピーカーを揺らした。
「あ、ユキ~?」
「ふざけんな何なんだよこんな時に。」
「こんな時って何よー? それよりちょっと来てほしいの、今渋谷なんだけどお、お願ぁい。」
「は? 渋谷のどこ。」
杏奈が口にしたイタリアンレストランの名前に俺は眉を寄せた。杏奈がこういう甘えた声を出す時が、どんな時か俺は知っている。お願い、なんていう普段なら口が裂けても言わない台詞は俺に向けたものじゃない。