興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「藍原、ここでいいのか?」

「はい。大丈夫です」

「じゃあ、おやすみ、明日な」

「はい、ご馳走様でした、有難うございました。
おやすみなさい」

シートベルトを外した。

「藍原…」

あっ、…。

「謝らないぞ…抱きしめたかっただけだ」

そして身体を離すと素早く下りてドアを開けてくれた。
手を取ってくれた。

「…おやすみ、藍原。…部屋に入るまで見てる。心配だから」

「おやすみなさい、課長」

「ん」

はぁ…。何だかポーッとしてしまう。

「藍原、…気をつけろよ?」

「え?」

「ん…いや、何でも無い…」

「課長?」

「何だ?」

「林檎のソルベ、美味しかったですね。甘酸っぱくて冷たくて、シャリシャリして」

思い出して頬を押さえながら話した。

「フ…そうか。それは良かった」

「はい。おやすみなさい」

…。

「藍原…」

「は、い」

「…狡いぞ、藍原…」

あ、…。手を引かれ、抱きしめられた。キャ…課長…。

「はぁ…そんな顔して、そういう事を言うなって言ってるのに…俺をドキドキさせるな…」

いきなりだ。急激に俺は…これが溺愛というモノか…。それに普段言い慣れてないことまで…。
可愛いい顔で美味しかったと言う藍原の事が愛しくて堪らなくなった。だから、つい、また抱きしめてしまった。

「藍原、ソルベでも何でも、好きなデザート、また一緒に食べよう」

「課長…」

凄く猛烈に強烈に熱烈なんですけど…。今日、何度抱きしめられた事か…。

「課長…、課長?…課長?あの、苦しいです…」

「はあ、あーごめん。ごめんごめん。痛かったか?大丈夫か?つい…」

「課長。フフ、大丈夫です。不器用ですね、本当に。真っ直ぐに不器用なんですね。…あ、おやすみなさい」

私…何、余裕をかました事言ってるんだろう。これは逆に余裕がない現れかも知れない。

「ああ、おやすみ」

一度振り返って見た。
課長が見ていた。手を振ってみた。振り返してくれた。
ちょっと戸惑った、口パクでおやすみなさいと言ってみた。見えたかな…。
あ、おやすみって言ってる。
部屋の鍵を開けた。もう大丈夫って、つもりで手を振った。課長が頷きながら振り返してくれた。
車に乗り込んだ。
運転席で手を上げると、スーッと通りに出てやがて見えなくなった。
はぁ。…何だか、不思議な時間だった。これって現実なのかな…。幻かも知れない。
部屋に入った。

カチャ。
隣のドアが開いた。
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