興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
あぁ、藍原…。
愛しくて、堪らず抱きしめた。言い辛い事を、恥ずかしそうに問い掛けてくる仕草も態度も、全てが愛しかった。

「解って欲しいんだ。藍原の事が凄く大事だからだよ?」

藍原から求めてくれるなんて、…思いもしなかった。嫌いで何もしなかった訳じゃない。そんな事、ありはしない。何もしないでいる事がどれだけ酷か…。俺は…しないと決めて我慢しているんだ。
藍原の気持ちが固まっていない内は、しないでいようと誓って自制しているんだ。それは軽いキスでさえ、踏み止まらせていたんだ。それを…。
だが…はぁ、もう…、こんな風に言われてはそれも無理だ。

「藍原…」

ぁ…、課、長…。
きつく抱きしめられたと思ったら、頬を包まれ覗き込むように見つめられた。
え…あ、急に…凄くドキドキする。……何?…あ。
ん…、唇が、触れた。課長…。
……初めてのキス。…優しく触れるだけの。私と課長の…初めてのキス。
課長の腰に腕を回した。

「ん、…藍原」

傾げるようにしていた課長の顔が離れた。
また見つめられた。
ドッドッドッ…体全体が心臓になったみたい。強く打ち続ける鼓動が煩い…。
あ。また首を傾げて唇に触れるとゆっくりと下唇を食まれた。ん、…身体が…熱くなる。胸が…ドクドク高鳴る。
優しくて、柔らかくて…温かい…。
ゆっくりと…離れていく。
抱きしめられた。片手で頭を軽く掴まれ、胸に顔を付けられた。
はぁ。課長の鼓動がトク、トク、と聞こえる。少し…速い。

「はぁ…藍原…。一旦触れてしまったら、もっとしたい、…もっとずっと、…したい。…深く繋がりたくなる。そんな気持ちになるから、簡単には手が出せなかったんだ。…一度触れてしまったら、キスだけでは終われなくなるからだ」

しっかりと抱き込まれた耳元で声がした。あ、…、身体がジンとなる。言葉だけで、こんな…。
私、課長にとんでもない事をしてしまったのかしら。ねだったつもりではなかった。決して煽るつもりで言った訳じゃなかったけれど…。
そして穏やかな声でしっかり言われた。

「今までのような、ただのお泊りじゃなくなる。そんな関係になる覚悟は出来たのか?」

藍原。迷いはないのか?よく考えたのか?心は定まったのか?
その上でこんな態度を取っているのか…。
……思いつきではないよな?

課長…。覚悟…。
そうなる事には覚悟がいる。遊びではないから。課長は初めから、結婚を考えた付き合いをと言っている。だから、そうなる事は契る事…。当たり前だけど、無責任には抱かないという事。

すぐ返事が無いのは躊躇しているのか?藍原。
それが答えだ、まだ迷いがあるんだな。
心は未だ、俺で一杯にはなっていないという事か…。
これはただ、漠然とした寂しさからの行動だったようだな。ただ…焦ったのか。
はぁ…。なら、…まだする訳にはいかないじゃないか。

「…はい」

?、藍原…?
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