興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「…恋人?噂?それ…坂本の事か?実は、って事だったのか」

「いえ、違います、坂本さんは本当に何でもありません。最近のその事ではなく、昔からある噂の事なんです。
何の根拠もないのに、いつの間にか…、勝手に進んでいて、いつでも結婚出来る相手が居るみたいな事にまでなっていて。だから、後輩が結婚しても、何も動揺しないとか、焦らなくていいですよね、とか言われたりして…。噂の出所も解らなくて…そんな噂なんですけど」

「…居ないのか」

「え?」

「噂じゃなくて、本物の恋人」

噂とは別に居ないのかってこと?

「…恋人は居ません」

…好きな人は居ます。…課長です。

「…そうか」

でも、もう無理っぽいです…。

「だから、本当は本物のお局になってるんです」

「藍原」

「…あ、はい」

「誰も藍原の事、お局だなんて呼んでないぞ?」

…でも。まあ、それは、相手が居るから余裕で居るんだみたいな、そういう見方をされてるからです。そこに救われてるんです、きっと。

「…このままでは本当に、お局になってしまいます」

「…居ないのか?…好きなヤツも」

あ…。それは。…どうしよう。今、言ってしまうと、明日気まずい?中止になるかもだ。
でも、言うなら、今がその…最後のタイミングかも知れない。

「…それは、……あの」

「ん?」

「…課長…私…」

「あ、課長ー!居た居た。すいませ~ん。ちょっといいですか~」

あ。あ、まだ言ってない。

「あ、は~い。悪い藍原、呼ばれた。あー、えっと明日終わったら一緒に会社を出よう。俺も早く終わるつもりだから。じゃあ、話の続きは明日だな」

課長はカップを片付け、行ってしまった。
あ、…え。話、……はぁぁ。途切れて良かった。
…はぁ。胸がとんでもなく高鳴っていた。こんな…苦しくて切ない思いに…もっと早く出会いたかったな…。好きな人に何かを話そうとすると、こんなに苦しいなんて。言おうとした事が告白だからだ。
はぁ、…。
…言わなくて良かった…かな。もう、改めてなんて話は…。無理、出来ない。


「藍原?…あ~、居た。休憩だよな?」

あ、坂本さん…。

「はい。もう戻るところですが」

「な~んだ。休憩に行ってるって聞いたから、一緒にって思って来たのに。残念」

坂本さん…。こんな時に、タイミング悪過ぎです。
でも、何だかホッとした気持ちになってしまう。
…あ、駄目だ。何だか泣いてしまいそう。駄目駄目…毅然としないと。何か別のことでも考えなきゃ。

「ん?どうした?」
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