bug!
アサギマダラ
これがデートか否かの前に、晴がいう『桜子さんと行きたい場所』というのはどこなのだろう。

普通、女の子を誘うときは、『○○に行かない?』というものだ。
その○○は映画館であったり、ドライブであったり、食事であったり。

その○○を抜きで、誘った晴も晴なのだけど、その○○を聞かずに行くと返事した私も私だと思う。

そんなわけで、私は約束の当日までどこに行くかわからず、そのおかげでなにを着ていけばいいかもわからなかった。

晴に聞けばいいのだろうけど、行くと返事したあとで聞くのも気が引けたし、正直なところ、どこでもいいかなという思いもあった。
晴と行けるなら。

約束の日の朝、前回と同じようにパンツスタイルで、それでも目一杯女の子らしい素材と色のブラウスを着た私が待ち合わせの場所につくと、もうそこにはいつも通りの大きなリュックを背負った晴がたっていた。

日曜日の朝九時、駅の東改札。

大学の最寄り駅だから、平日なら通学の学生で混雑している駅も、今日は人も少なく、どこかのんびりして見える。

「桜子さん! おはようございます!」

私を見つけ、大きく手を振りながら駆け寄ってくる晴はまるでラブラドールレトリバーのようだ。

寝癖をつけた晴は、拍子抜けするくらいいつも通りの笑顔で「昨日は楽しみで寝られませんでした!」と言ったのだった。





< 36 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop