夢を忘れた眠り姫
「病巣は手術で完全に取り除けたし、術後数年間に渡っての経過観察は必須だけれど、まぁほぼ再発はないだろうというのが医師の見解らしい」


そんな超プライベートな情報まで把握しているのかと、度肝を抜かれている間に貴志さんの解説は進んでいく。


「ちょうど長期連載は終えていて、単発で頼まれていた原稿も早々に入稿していたから、仕事に穴を空けるような事態にはならず、病気の事実が広く世に知れ渡るのは回避できたんだな」

「…そうなんですか」


病気になったのは超絶に不運だったけれど、タイミング的には恵まれていたという訳だ。


「ただ、80近い高齢で体にメスを入れられたのはさすがに堪えたらしく、新しい仕事は入れずに数ヶ月間静養していたらしい。その最中、唐突に、それまでは仕事が忙しくてほとんど交流のなかった孫娘の存在がクローズアップされたらしいんだ」

「……病に冒されたことで、人間はいつどうなるか分からないという事をしみじみと実感し、急に血縁者である孫への慕情が沸き起こり、その花嫁姿を拝んでからでないと死んでも死にきれない、という考えに至った訳ですね」

「その通り。よく分かったな」

「だってもう、十人中十人が予想するであろう、あまりにもベタすぎる展開じゃないですか」


創作の世界で散々使い回しされて来たエピソードだ。
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