夢を忘れた眠り姫
「そっちを捨ててメリットのある見合い話に飛び付くような男は願い下げってことなんでしょうか…?」

「だろうな。さらに、年収は最低でも現時点で500万円以上で、この先どんどん昇給して行く見込みがあること、だとさ」

「25才に年収500万以上を求めるって…」


簡単に言ってくれちゃってるけど、今のご時世、その若さでそれだけの賃金を稼げるのは、そこに至るまでに結構な努力を重ねた人だけなんだけど。

しかもそれはあくまでも最低ラインで、これからも飛躍し続けなくちゃいけないなんて。

何が『贅沢三昧をさせる必要はない』だ。

どう考えてもそういった環境を望んでいるじゃないか。

自分で自分の発言の矛盾点に気付いていないのだろうか。

彼は大学在学中に小説家としてデビューして、しかも初っぱなから売れっ子になったらしく、一般企業に就職した経験はない。

なのでやはりその辺の感覚がズレているのだと思う。


「…まぁ、一応俺達の勤める会社は世間では『優良企業』とされていて、大してスキルのない俺でも有難いことにギリギリそれくらいの額はもらっているからな。そして年齢的にもその範囲内にいる。だからアイツはその話を持って来たんだろう」


自分自身を褒める事になるのでこっ恥ずかしいのか、貴志さんは視線を中途半端な位置に漂わせ、早口でそう捲し立てたあと、改めて私を見ながら続けた。
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