夢を忘れた眠り姫
「いえいえ、住み処をシェアさせていただくことへの、せめてものお礼ですから」

「しかし…。あんな面倒くさい女に、恨まれる役どころを押し付けてしまった訳だからな…」


貴志さんはとても気まずそうな表情になった。


「否応なしに親子関係になってしまったが、赤の他人だったら、俺なら絶対に近付かないから、あんな女」

「え。そ、そんな」


今日の貴志さんはどうしてこう返答に困るようなことばかり…。


「母親がよく口にするセリフで『お母さんはすべてを投げ出してでも、あなたのお父さんと繋がっていたかった』ってのがあるんだけど、それを聞かされる度に『はぁ?何をふざけたことを』と思っていたよ」


しかしまたもややさぐれスイッチが入ってしまったらしい貴志さんは、私の心中にまで考えが及ばないようで、徐々にエキサイトしつつ言葉を吐き捨てる。


「『すべてを投げ出す』というほど、大したペナルティは負ってないだろうと。地方ではあるけど都心まで一時間足らずで出られるような便利な場所に親子二人で住むには十分な広さのマンションを買い与えられ、なおかつ月々の生活に困らないくらいの金ももらっていた。そして自分が愛人だなんてことをいちいち周りに説明して回ってた訳じゃないから、近隣住民や職場の人間、学校の保護者達にはただのシングルマザーだと思われていた」


貴志さんの弁論は続く。
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