夢を忘れた眠り姫
「新しい人員の確保はされなかっただろうが、かといって、既存の社員をリストラするような事態にはならなかった筈だ。それに、たまたまその歴史が続いていたというだけで、別に、絶対に社長の息子が跡を継がなくちゃいけない決まりなんてないんだから。アイツがいなくなっても、他の社員の中から優秀な人材が選出され、隅谷書房の経営は滞りなく続いていただろう」
そこまで一気に捲し立ててさすがに疲れたのか、一旦言葉を切り、呼吸を整えてから貴志さんは話を再開した。
「……そうすれば本妻だって、隅谷家に嫁ぐ必要はなく、自分で選んだ、もっと温かくて思いやりのある男性と結婚できていたかもしれない。もしくは独身のまま、仕事に趣味に情熱を注ぎ、とても充実した有意義な暮らしを送っていたかもしれない。とにかく今よりは確実に楽しく明るく幸せな人生を歩めていた筈だ。裸一貫で外の世界に飛び出す事のできなかった、弱虫で甘ったれで臆病者のアイツのせいで、一度きりの人生を狂わされたんだ」
「…ただ隅谷の威光を手放したくなかっただけじゃなくて、お父さんが家を出なかったのは、やっぱり、本作りがしたかったからじゃないでしょうか」
「……え?」
「だって、先代に楯突いてそこを飛び出してしまったら、もう出版業界では仕事はできなかっただろうから。だから何としてでもその場に留まるしかなかったんじゃないでしょうか」
そこまで一気に捲し立ててさすがに疲れたのか、一旦言葉を切り、呼吸を整えてから貴志さんは話を再開した。
「……そうすれば本妻だって、隅谷家に嫁ぐ必要はなく、自分で選んだ、もっと温かくて思いやりのある男性と結婚できていたかもしれない。もしくは独身のまま、仕事に趣味に情熱を注ぎ、とても充実した有意義な暮らしを送っていたかもしれない。とにかく今よりは確実に楽しく明るく幸せな人生を歩めていた筈だ。裸一貫で外の世界に飛び出す事のできなかった、弱虫で甘ったれで臆病者のアイツのせいで、一度きりの人生を狂わされたんだ」
「…ただ隅谷の威光を手放したくなかっただけじゃなくて、お父さんが家を出なかったのは、やっぱり、本作りがしたかったからじゃないでしょうか」
「……え?」
「だって、先代に楯突いてそこを飛び出してしまったら、もう出版業界では仕事はできなかっただろうから。だから何としてでもその場に留まるしかなかったんじゃないでしょうか」